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知人の話

学生時代の知人に、口を開けばそれがそのまま「ボケ」になる強烈な個性を持った人がいた。いわゆる天然と呼ばれるやつで、わざとやっているわけではなく普通に飛び出すのだ。例を挙げれば数限りないが、これひとつと言われたら「え!鹿児島って島じゃないの!?」。

馬鹿なのではない。むしろその反対だ。名前を挙げたら誰もがひれ伏すような世界的コンサルティング会社に勤務しており、家族との会話では、まるで方言でも話しているかのごとく日本語と英語をごちゃ混ぜにして話す。帰国子女なので、「つい英語が出ちゃう」のだそうだ。一度は言ってみたいパワーワードである。

バイタリティーも凄まじく、学生時代は連日連夜の実験をこなしながら、趣味の音楽サークルの練習も欠かさず参加し、半分寝ながらヴァイオリンを弾いていた。いつかヴァイオリンを落とすのではないかとひやひやしたものだ。

私もこうして文章を書いている以上、多少は「おもしろいとはなんだろう」とか、「もっとオリジナリティーを出すには」とか考えているわけではあるが、考えたからといって別におもしろくなったり、個性的になったりするわけではない。そもそもそんな思考に入っている時点で勝てないのだ。そうこう考えている間にもあちらはナチュラルに二つ三つボケてくる。当人は狙ってないのに、やっぱりおもしろい。そのことを深刻に受け止めているわけではなく、才能ってそういうものなんだろうなあと素直に感心している。

現在はアメリカで忙しい日々を送っているとかどうとか。私の中では未だに某コンサルティング会社社員であることと、「鹿児島って島じゃないの」事件が結びつかず、だからこそいつまでも心に引っかかり続ける思い出になっているのである。

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