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『物語』/400字エッセイ

『嘘みたいな本当の話』という本の中に、たった一行の作品が出てくる。

『ばな奈』
うちの父さん、「東京ばな奈」で歯が折れた。 広島県 あゆころ

『嘘みたいな本当の話みどり』内田樹・高橋源一郎選、イースト・プレス、37ページ

これを読んだとき、物語の考え方が大きく揺さぶられた。たったの一行、起承転結の「起」しかないのに抜群のおもしろさ。その根幹には、このエピソードが事実であるという前提がある。

この松葉杖いいねと俺が呟けば一月二日は松葉杖記念日 しんくわ

こちらは短歌。事実かどうか明らかにされているわけではないが、この作品が存在すること自体が事実らしさを感じさせる。この短歌のおもしろさはもうひとつ、言わずと知れた有名短歌のパロディになっていることである。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 俵万智

物語の本質は、事実であるかどうかではなく、そこに事実らしさがあるかどうかではないだろうか。


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