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コロナで編集者の仕事はどう変わった? 変わらないこと。モヤモヤすること。

コロナ禍で編集者の仕事の何が変わったか、身の回りで起こったことや、感じたことをまとめてみたいと思います。

きっかけは、最近発売された話題の「MANGA Day to Day」(講談社)を読んだためです。帯文によると「100人超の著名漫画家が集いコロナ禍の“日常”を描いたマンガ」。

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それぞれの作家さんの現在地点を描いていることに刺激を受けたので、編集者としてもコロナ禍で変わったことや、感じたことをそのまま記録しておこうと思いました。

「シンプルにリモートでよかった!」と思えること、
「打ち合わせで課題となったこと」「求められたスキル」
「著者とのやりとりで難しいこと」「幸せを感じた瞬間」
など。

進行がスピーディーになった。しかし…

仕事の変化といえば、いうまでもなく、リモート化によって仕事の進め方が激変したことです。

リモートでの打ち合わせが増えたことによって、進行がスピーディーになりました。移動の手間、コストがなくなりました。

同業者に聞くと、一番のメリットは忙しい人や遠方の人との打ち合わせが気軽にできるようになったことだと言います。私もそう思います。30分など、数分でも時間をつくってもらうことが可能になったので、本当に助かっています。

しかし…、リモートでの打ち合わせを続けていくうちに、場の空気感や、気持ちを共有できない、気軽な無駄話ができないなど、デメリットを感じるようになりました。

本をつくる際は、著者、ライター、デザイナー、編集者など、スタッフとの打ち合わせがとても大事です。とくに最初の打ち合わせ「キックオフミーティング」は、本づくりの主要メンバーに「こういう本を作りたい」と伝え、スタッフ全員の意識をひとつにし、モチベーションを上げる場ですから、「場の空気感」「気持ちを共有する」「企画に至った経緯(無駄話というか話の脱線が多い)」すべてが大事です。

「リモートでどうやってキックオフする!?」というのが、最初の課題だったように思います。

求められる「MC力」

そこで必要になったと感じたのが、場を適切にまとめ、打ち合わせを前に進めていくMC力(場を仕切り、スタッフ全員の個性を引き出す力)でした。今まで、いかに適当に打ち合わせをやってきたのかがよくわかりました。

もちろん、リモートでなくても必要なスキルなのですが、リモートの打ち合わせの場合MC力がないと本当にグダグダになってしまう。

「和やかな雑談から入り、打ち合わせの目的を決め、自分が話すだけでなく、参加者の話を引き出す、議論をまとめ、次回の課題を決めて…」など基本的なことはやらなきゃ…という意識で打ち合わせをするようになり、ずいぶんとスムーズにスタッフの意識の共有ができるようになりました。

意見のすり合わせが難しい

コロナ禍のリモートの仕事でとくに難しいと感じたのは、著者との打ち合わせや取材です。オーソドックスな質問項目にしたがって聞いていくような取材は、著者の協力のおかげで問題なくできると感じています。コンセプトが共有されていたり、軌道に乗っていれば問題ないと思います。

一方で、著者の懐に踏み込まなければいけない取材は難しいと感じています。通り一遍の質問では聞き出せない、著者のパーソナルに踏み込む取材は難しいです。

そして、私が最も強く感じたのは、「意見のすり合わせが難しい」ということです。

たとえば、本を作っていると、本の内容(たとえば、文章表現や、タイトル、キャッチコピー、本のデザインなど)について、著者と編集者とで意見が合わないことがでてきます※。たとえば、著者に書いてもらった原稿で修正してほしいところがあるとか。編集者が考えたタイトルで、著者の合意が得られないなど。

こういうときに、納得いくまで議論するのが難しいと感じました。

これは、著者と編集者の関係が悪いから起こることではなく、本づくりでは当たり前に起こる現象です。こういうとき、真剣な議論が繰り広げられます(このあたりも今度、この場でお話ししたいと思っています)。

丁寧に仕事をすることは変わらない。

普通ならば、会って、顔を合わせながら、お互いの意見を話し、感情や気持ちをくんだうえで、落としどころを見つけることが多いです。しかし、リモートだとそれが難しい、あるいは時間がかかると感じました。議論はできるのですが、感情や気持ちが読み取れないので、お互いの気持ちに寄り添うことができないというか。

また、本来は、腹を割って話さなくてはいけないところを、無意識に議論を避けてしまう。手を緩めてしまっているかもしれないとも思いました。

おそらく時間をかければできるのですが、本づくりとはたいてい時間がないものなので…その中でリモートやメールで議論していると、著者に手間をとらせてしまいますし、編集者も大変です。

どんな環境であっても丁寧に対応するのが編集者の仕事なのは変わらないのですが、なかなか難しいと感じています。やっぱり対面で取材や打ち合わせができるといいなぁと。モヤモヤしています。

最後にリモートで幸せを感じたことを。

リモートでのコミュニケーションもよいものだと思ったのが、この「シュッパン前夜」のメンバーで、編集者同士のリモート飲みを開催したことです。時期は2020年の初夏なので、本当に、迷いながら仕事をしていたころでした。

そのときは、日常生活の戸惑い、慣れない仕事への苦労など、思い思いに話しました。
実は、そのリモート飲みが初対面?でしたが、苦労話が肴になり旧知の仲のように距離が縮まったことを覚えています。

リモートでも、気持ちは通じ合える。

対面で話をしているかのように場を共有している。そう思えた瞬間でした。
ただのお酒の力か、という見方もできますが…。

ひとつ感じたのは、リモートも、リアルも関係なく「場を共有するためのスイッチ」がそのコミュニティごとにあるんじゃないかということです。そのきっかけを探すことこそが、本づくりのチームワークを強めていくことにつながるんでしょうね。


新しい日常、新しい仕事の仕方は、まだまだ研究しがいがありそうです。

(文/高橋ピクト)

実用書の編集者。スポーツ、健康書を中心に、囲碁、麻雀、競馬、アウトドア、雑学などを担当することが多い。ワクワクする実用書をつくるのが目標。町中のピクトグラムが好きで、見たことがないトイレのピクトグラムを発見することに幸せを感じる。

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