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「実用書づくりって、楽しいよ」編集者のやりがい3つの瞬間

「本づくりのやりがいって何ですか?」
最近、編集者志望の方から質問されました。
日々やりがいを感じることはあるものの、いざ聞かれると、何と答えたらよいものか困るものですね。
 
こんにちは、高橋ピクトです。
池田書店という実用書の出版社で編集の仕事をしています。
私は、実用書の編集を20年近くやっていますが、
この仕事を「やりたい!」と言っている人は、あまり見かけません…。
 
実用書は、日常生活で役立つ知識や技術をまとめた本。ハウツー本とも呼ばれ、たとえばレシピ本やダイエットの本、囲碁や将棋の本などのことを言います。
今回は、この仕事が「意外といいものだ」ということを伝えたくて、
編集者がやりがいを感じる、3つの瞬間をお話しします。

読者から「役に立った!」といわれることが一番。

読者に「本を使ってもらえる」ことはやりがいです。
 
出版社には、読者からの感想がさまざまな形で届きます。今はSNSや、ネット書店のレビューが多いですが、読者ハガキや電話、手紙などでいただくこともあります。機会は少ないですが、直接読者の方にお会いして、お話を伺うことも。ボロボロになるまで読み込まれた本に付箋をたくさん立てて「役になったよ!」と、言ってくださる方もいらっしゃいました。
 
また、読者ハガキに「この本のおかげで長年の悩みが解消した(健康書)」という言葉や、「求めていたやり方が見つかった!(囲碁の本)」という声をいただくことも。私は、肩こりや腰痛、便秘など、体の不調がテーマの健康書をつくることが多いので、悩みが解消したという声は本当にうれしいです。読者に本を役立ててもらえたということですから。
 
ついこの間、「この本、本当にいい本だから、それを伝えたくて電話したんだよ」と出版社に電話をかけてくださる方もいらっしゃいました。その方は「家族にも読んでもらいたくて、5冊買うよ!」なんて、嬉しいことをおっしゃっていました。
 

著者から「この本のおかげで!」と言われたら報われる

ふたつ目は、著者に「本を使ってもらえる」喜びです。
実用書には、著者の知識と経験、技術が詰まっています。
 
その本が出版されたことによって、「お客さんが増えた」という飲食店経営の方、「生徒からわかりやすいと言われました!」という管理栄養士の先生、「名刺代わりに使っています」という方、「テレビ出演ができて、憧れのタレントさんに会えた!」という方も。
 
中には、「この本を作ったおかげで、自分の考えが整理された」とか、「自分の進む道がはっきりした」「独立を目指すきっかけになった」という方もいらっしゃいました。

本を作るのはさまざまな苦労があるものです。
とくに著者は、本づくりで苦労しているのはもちろんなのですが、本づくりに至る前に、人並外れた研鑽と経験を積み重ねています。山あり谷ありの活動の中で、ときに体を壊しながら、人によっては家族との時間を削りながら、数年、数十年かけて取り組んできた仕事や研究が本となり、様々な人に広がっていく。
 
編集者は、その瞬間を目の当たりにしたとき、この上ないやりがいを感じます。

「人生を変える経験」ができる

3つ目は、何気ないチャレンジが、人生を変える経験になることです。
“何気ない”なんていうと、関係者に怒られちゃうかもしれませんが……。
たとえば、私は、初めてランニングの本を担当したとき、その著者のランニングコーチの勧めでランニングをすることになりました。

そのときは「ちょっとやってみて、読者の気持ちを知ろう」と思っただけでした。ところが、やりはじめるとどんどんハマり、長い距離を走るのが楽しくなり、しまいにはフルマラソンにチャレンジすることになりました。
無事に完走してからも、ランニングがすっかり習慣になって、はじめてから10年になります。今、改めて年数を数えてみて、自分でも驚いたほどです。
 
ランニングの習慣は、私の生活スタイルをすっかり変えました。
ランニング体型になりたいからと栄養や筋肉の勉強するようになり、ランニング中の暇つぶしに落語を聴いたことで落語会に行くほどハマリ、都内をランニングすることで江戸の歴史が好きになり、駅伝大会やリレーマラソンに出るために仲間も自然と増えていきました。
 
何より、読者の気持ちもわかるから、本を作っていて楽しいです。
 
ランニングを始めてなかったら、きっと全然違った生活をしているでしょうから、人生を変える体験といってもいいと思っています。
こんなに大きなやりがいを感じられるとは、実用書を作り始めた時は思いませんでした。
 

3つと言っておきながら、最後にひとつだけ

私が実用書づくりで最もやりがいを感じるのは、素晴らしい人たちに出会えることです。
 
著者や監修者の先生はもちろんですが、一緒に本をつくる編集者さん、ライターさん、デザイナーさん、イラストレーターさん、マンガ家さん、カメラマンさん、スタイリストさん、校正者さん、印刷会社の方々。実用書はたくさんの人たちが関わり、短ければ数か月、長い時は数年かけてひとつの目標に向かって走り続けます。
 
他の書籍と比べるとスタッフの数が多く、雑誌と比べると制作期間が長い。2、3年かかる本づくりでは、さまざまなことが起こります。いいことばかりではなく、予期せぬことが起こります。叫びたくなるくらい悩み苦しむことも本当に多いです。でも、苦労が形として残り、それが次の仕事に向けた、心の支えになる。
 
私は、本づくりに携わるメンバーが集合する瞬間、初顔合わせが好きです。
大きな目標の前に、「いい企画だね」「今回はどう作る?」と、希望に満ち溢れているからです。

このチームワークが、実用書の醍醐味だと思っています。
関係者のみなさん、いつもありがとうございます。

そして、本づくりに興味がある方にも、
そうでない方にも言わせてください。
実用書づくりって楽しいよ!
 

#仕事について話そう #編集者  

文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書を中心に担当。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。
GWは妻のベランダ菜園を手伝う予定。ベランダ菜園も、本づくりがきっかけで始めました。

Twitter @rytk84

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