見出し画像

スタア編集者になれないとモヤる若者へ、妖精さんからのアドバイス。

新しい仕事にチャレンジなど時間と気力のムダ。これまでやってきたことをそつなくこなすにとどめましょう。

そんなことをしていたら、完全に出世の道が閉ざされてしまうって? いやいやあなたの年で課長止まりなのですから、これから急に幹部に引っ張られる可能性など万に一つも起こりません。心配ご無用。

若手社員のサポートをしたり、相談相手になる必要もありません。若手の育成も御免こうむりましょう。そのようなことは40代のキャリア社員に任せればいいのです。定時になったらさっさと退社しましょう。

以上をちゃんと実行すれば、あなたは確実に「働かないおじさん(おばさん)」認定されます。やがてまもなく陰口をたたかれたり「給料だけは二人前」と白眼視されるでしょう。しかし、気に病む必要はありません。職場にいるのかいないのかわからない〝妖精さん〟になればよろしい。

あなたが定年退職日までに肝に命じる課題は「休まず、遅れず、働かず」この3つです。

――以上、出版社勤務30数年、50代半ばの編集者マルチーズ竹下の「定年後を充実させられる人の条件」でした。

うそです。上記は、プレジデントオンラインにて掲載された精神科医和田秀樹氏の記事【50歳からは「働かないおじさん」と呼ばれるくらいがいい…和田秀樹が教える"定年後が充実している人の条件"】から一部を抜粋し、かつ私の個人的主観も加えて編集したものです。なので、和田秀樹さんからの提言です。さも自分のもののように紹介して申し訳ありません。
 

さすが、『80歳の壁』(幻冬舎新書)57万部超、『70歳が老化の分かれ道』(誌想社新書)37万部超、その後も次々と『60歳からは~』『90歳の~』『どうせ死ぬんだから~』と年齢や死という言葉を書名に入れる打ち出しでベストセラーを連発してきた〝全共闘世代の指南役〟です。この提案(記事)を読んだとき、あまりの振り切りぶりに衝撃を受け、その後、思わず笑ってしまいました。

他人事だから笑えたのか? んなわけありません。私も立派な「働かないおばさん」ですから、完全ジブンゴトです。そして働かない/働けない我が身をなかなか受け入れられず、「しょうがないよね初老なんだから」とのあきらめと「いやここまで働いてきた経験値を生かしてもう一踏ん張りできるはず」との自尊心にあいだで、フラフラと揺れ動いています。

だから、和田氏の「『今』に固執するな、編集者終えてからの人生に備えろ」の言葉に(そう勝手に受け取りました)、救われた気がしました。笑っちゃったのは、ホッとしたからです。あー、私の切ない「働かないおばさん問題」に、これでひと区切りついたわ。

そして、憑き物が落ちたような気分で、ふたたび自分なりの編集者人生をリスタートする気がわき上がりました。

で、ここまでは序章。今回の投稿で伝えたいのは、次からです。

私の周りには、俗にスタア編集者と呼ばれる人がけっこういます。

ベストセラーを定期的に企画立案し、メディア取材も積極的に受け、自ら本名と所属先を明らかにしてSNSでの発信を積極的に行っている人。私と同世代の方もいれば、30代もいる。若くしてその人なりの成功する仕組みを確立し、自分のアカウントやトークショーなどでそれらを惜しみなく披露する・・・・かっこ良すぎます。

私は子どもの時から「自分より秀でた人」を見つけては勝手に〝推す〟派。鶏口になるよりも牛後となるほうが楽しそう・・・・と考えるタイプなので、いい年なのに若いスタアさんの登壇する場に出向くのもわりと好きです。ヒットの生まれる秘訣などをふむふむと敬聴し、メモを取り、終演後には本人のそばに行って「たいへん面白かったです、たくさんヒントをいただきました!」と大学生のように頭を下げるので、ときどき講演者を「こんなオバ・・・・ベテランの同業者がなぜここに?何目的??」と怖がらせてしまうこともしばしば。

しかし。そんなスタアの存在に、心をザワつかせている若い人がいるのも事実です。とくに同じ会社、近い職場だったりすると「マジ地獄っす」と後輩のGさんは言います。以下は、ある日のGさんと私の会話。(内容や設定は適度に変えています)

Gさん(以下G)「チームは違うけど、同じ局内に、こないだ表彰されたA子さんがいて・・・・」
私「ああ、新刊2冊が立て続けに10万部超えて、いまも部数を伸ばしてるんでしょ? すごいよね」
G「A子さん、Xで個人アカウント持ってるんすけど、フォロワー数も多くて。直接そこに、担当してほしい、ってDMも来るらしくて」
私「いまどきだね。私も作家なら、勢いのある編集者と仕事したいもの」
G「・・・・・彼女、俺と同じ中途(入社)組で。年も2つしか違わなくて」
私「ほう」
G「彼女のほうが上なんすけど、前の会社で育休2回取ってるから、実質俺と同じくらいのキャリアで」
私「え、お子さんいるんだ!(←ママさん編集者好きなのでときめく)」
G「まだ小学生と年少さんらしいっす。だから5時過ぎるとソッコーいなくなる」
私「その分、家に持ち帰ってるんだね。うちのフロアのママさんたちも朝からフル稼動してるよ。ちゃんと休日は家族で過ごすし、ひとりの時間もなんとか捻出してる。彼女たちのマネジメント能力はすげえよ」
G「そんで仕事でも結果残してるんすから、最強っすよね。あー、なんかもうイラつくっす! 今日も◯◯部長の飲みに付き合う約束なんですよ。俺独身だし、最近企画も通せてないし、上司にへいこらして飲みに付き合うくらいしかできないっすから・・・・。なんか近い距離で豊かな暮らし? 充実した人生? みたいなの見せられて、おまえはそれに比べてどうなの??って尋問されてるみたいで、マジ地獄っす!!!」 

Gさんのモヤモヤが、矢にかたちを変えて、私の胸にプスプスと突き刺さってくる。痛い・・・・・痛いよ・・・・!

仕事は、流した汗の分、見返りをくれるとは限りません。
4ページの記事のために100本近いタイトルを提案し、ようやくOKが出た記事がアンケート1位になるとは限りません。
寝ないで著者と知恵を絞り合い、原稿をチェックし、何度も台割を見直し、校了ギリギリまで赤字を入れたからといって、その本が売れるとは限りません。
大ヒット著者である和田秀樹氏も、2022年にいちばん売れた本の著者に選ばれる前は「1勝9敗の打率だった」とインタビューで語っています。 

売れる本にはワケがあるし、売れない本にもワケがある。そこをきちんと分析し、売れる仕組みをおさえた本を作れば確実に売れる。――というわけでもないのが出版業界なんですね。

でもねGさん、A子さんはたしかに星の数を重ねていますが、見えにくいところで失敗やトラブルも重ねているんじゃないのかな?
彼女の本当のすごさは、そこで腐らずに次の挑戦に生かす糧にしてるところじゃないかな?

・・・・なんて、Gさんには言いません。そんなの、きっと彼もわかっているだろうから。だから私はGさんに、こう返しました。

「旅にでな」 

2か月くらい、仕事を止めたって、おそらくGさんを取り巻く環境は変わらない。その間、A子さんは順調に業績を伸ばすだろうし、◯◯部長は別の部下を誘うだけです。でもきっとGさんには何らかの変化が起こると思う。だから、旅に、でな!!

私が和田秀樹さんの提案に衝撃を受け、笑ってしまい、気持ちがスッとしたように、Gさんのココロも軽くなればよいなと思います。

編集の仕事は、自分の思想やプライベートも制作物(本)に投影せざるを得ないので時に苦しいけれど、その分、たまらない充実感や幸福感、まれに万能感に包まれる仕事でもある。だから今がそうではないからといって、自分の不甲斐なさを責めたり、周りを恨んだり嫉んだり、人生そのものを拗ねてしまうのは、ほんとうにもったいないと思うから。

ただし、そんな気持ちで◯◯部長の飲みに付き合う必要はまったくない、というメッセージはちゃんと言葉にして伝えました。飲むなら、◯◯部長ではなく、外部の編集さんやライターさんと! そのほうが絶対、本づくりのヒントを得る確率が高くなるから、と。

成果の出てないお詫びとして飲みに付き合う部下。
そうとは知らずに若い頃の武勇伝を揚々と語る◯◯部長。

それこそ、マジ地獄っす。

文/マルチーズ竹下

本づくりの舞台裏、コチラでも発信しています!
Twitterシュッパン前夜

Youtubeシュッパン前夜ch


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?