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明日をラクにする、経営改善

こんにちは、医療経営コンサルタントRe-FREE代表の梅木です。

今回の記事でお話ししたいことは、小規模病院があらゆる問題に取り組むうえで決定的に重要な視点についてです。売上・利益増、スタッフの採用・定着、医療サービスの質向上をはじめとする課題を解決し、明日をラクにするためには何が必要か。よくあるケースや私自身の過去の経験をふまえながら、お伝えしていければと思います。

医療経営の不在がもたらす悪循環

「経営者を含め、全員が精一杯頑張っている。にもかかわらず、そこにいる全員が報われずに不幸せな思いをしている」。一見すると、きわめて不可思議で不条理な状況です。しかし、そんな状況がありふれたものとなってしまっているのが、私が長年勤めてきた、そしてこれから是が非でも変えなくてはならないと思っている、医療という領域です。

突然ですが、よくあるケースをご紹介しましょう。

開院して20年が経つ小規模の病院。専門科は2つ。医師3名を含め、職員は50名程度。救急対応、外来、入院と、院長先生をはじめスタッフは皆忙しい。開院10年目頃までは盛況だったが、徐々に売上が減少。対応している患者数は変わらないが、単価が下がってきている。

以前は経営者とスタッフが家族のように近い存在だったが、スタッフの増加とともに顔と名前が一致しなくなり、関係がどんどん希薄になっている。さらに職場の雰囲気も悪くなり、スタッフの退職が続く。人材紹介会社を通じてなんとか採用しているが、多額の紹介料を支払うため利益は落ちている。しかもスタッフの離職は止まらない。

人材の入れ替わりが激しいなか教育も行き届かず、スタッフのレベルが院長先生が望む医療サービスの質に追いついていない。すべてについて指示を出さざるを得ない状況が悩ましい。改善案を現場に要望しても、満足するものは出てこない。

窮境に追い打ちをかけるように近隣に新たなクリニックができ、最近では外来患者が減りつつある。院長先生はさらに忙しくなり、目の前の患者対応に精一杯。経営に関する具体的な手立てを考えて実行する時間は、もちろんない。

なんとかしないといけないのはわかっている。そのために精一杯頑張っている。しかし、どうしたらいいかわからない。借入金は増えていくばかり。事業としての資産は増えない。悲惨をきわめた状況。しかしながら院長先生もスタッフも、「医療経営はこんなものだ」と諦めに近い思いにいたっている。……


なぜこのような悲惨な事態が出来してしまうのか。それは一言でいえば、医療経営という視点が決定的に抜け落ちているからです。

院長先生はじめ医療機関・介護事業所の経営者の資質に問題があるから、というわけでは必ずしもありません。それぞれのスタッフは専門職である以上、医療サービスの提供や自己研鑽にリソースを割き、精いっぱい本分を果たすものです。そうした状況で、誰もが経営について真正面から考える時間を確保しにくいのは、ある意味では致し方ありません。加えて医療・介護の制度上の問題が、各病院が経営にまで手を回せない状況を生み出している側面も、残念ながらあります。

ただそれでも、医療経営の視点が抜け落ちた病院がある種の悪循環に陥りがちなことは、現実問題として無視できません。離職率の増加、採用費用の膨張、職員の入れ替わりによるサービスの質の低下、ニーズへの対応力の減衰、そして収益減。競合の出現がそこに拍車をかける場合も多々あります。こうしたスパイラルに歯止めをかけないかぎり医療・介護の質向上が望みがたいことは、おそらく言わずもがなでしょう。

とはいえ、ただでさえ多忙な院長先生が経営にまで注意を向け、必要十分な計画を立てて施策を推し進めることはできるでしょうか? 必ずしもNOとは言い切れませんが、困難なのは間違いないでしょう。だからこそ私は、「小規模病院においても、経営を専門とする人材が不可欠である」と考えています。

経営人材の価値

繰り返しておきたいのですが、経営面でつまずいて窮境に陥っている病院は、なにも「頑張っていない」わけではありません。経営者を含めた全員が精一杯頑張っている、にもかかわらずうまくいかない、という逆説的な実情がそこにはあります。現場スタッフ、管理職、経営層、全員がそれぞれの役割の中で懸命に頑張っている。そして全員が、多かれ少なかれ経営・管理に関する問題意識をもっている。そのことは理解されるべきだと思っています。

これまでさまざまなポジションとして大小4つの医療法人に勤めてきたなかで、私自身こうした状況は肌で感じてきました。現場スタッフには「目の前の患者さんに精一杯のサービスを提供したい」という想いがあり、管理職には「現場のスタッフが働きやすい環境を作りたい」という想いがある。経営者も、医師として多忙を極めるなか、どうにかしてスタッフの話を聞いたり経営のことを考えたりする時間を作れないかと頭を悩ませている。立場は違えど、みんなそれぞれの視点で真剣に考えているのです。だからこそ、終わりのない悪循環の中でたくさんの人がつらい思いをしていることが、私には悲しく、そして悔しく思われてなりません。

経営人材の価値は、まさしくそうした悪循環を断ち切り、新しい風を吹き込むことにあります。経営者とともに病院のあるべき姿を考え、外部環境を冷静に分析し、内部環境を把握して、問題点を明確にする。そして、あるべき姿を現場と共有することで、新たな問題をスタッフ自ら発見・解決できるようガイドしていく。そうして改善が自主的に行われる環境が築かれていくなかで、人材の育成も促され、定着率も高まります。育成された人材は一人一人が替えの効かない経営資源として、それまで孤独に経営を頑張っていた院長先生を支える存在になるでしょう。

医療経営に正しく力を注ぐことは、院内の人々の働きやすさやサービスの質の向上に直結し、ひいては患者さんの満足にまでつながっていく。そのように私は確信しています。

医療経営にかける想い

私は医療経営コンサルタントとして、医療機関、とりわけ小規模病院における経営上の悪循環に歯止めをかけ、この国の医療サービスの質を高めることに少しでも貢献していきたいと思っています。それは、複数の医療法人に勤め、さまざまな立場から現場や経営の実情を眺めてきたなかで、医療経営のあり方は変えられるし、変えていかなくてはならないという確信を得たからです。

医療経営は、けっして経営の理論だけをもってできるものではありません。かといって、現場の実情の把握だけによって適切な舵取りをしていくのも困難です。両方を兼ねそなえ、経営に時間と労力を集中させることのできる人材を活用すること。手前味噌ですが、それだけで改善がスムーズに進んでいく側面は大いにあります。

そして、経営の改善はなにも痛みや苦しみに耐えなくては成し遂げられないわけではありません。核心を突いた小さな改善策からスタートしさえすれば、大きな痛みをともなうことなく変化を生み出すことは十分に可能です。その核心を知識と経験と多角的・客観的な視点で浮き彫りにし、改善を後押しすることが、私たち医療経営コンサルタントの役割の本質だと私は捉えています。

医療機関は、短期間で儲けてサヨナラ(Exit)するようなビジネスではありません。地域の人たちの健康を支援し、安心・安全な生活を支えつづけるのが、本来あるべき姿です。そのためには、専門職が心からの笑顔と誇りをもってサービスに集中することができる環境を整えなくてはいけない。そうなって初めて、患者も医療・介護サービスを通じて「自分の人生は良かった」と思うことができるはずです。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、患者のために懸命に日々奮闘されている医療業界の方々のために、私は本気で貢献したいと考えています。

『idea notes of Re-FREE』、他の記事はこちら↓

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