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「マック」も「シャネル」もないロシアに備えるモスクワ市民たちの悲哀【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.226】

3月8日の夕方、モスクワ市内の「マクドナルド」の店の外にできた長蛇の列には、この皮肉な状況を認識している市民たちも並んでいた。同チェーンがロシアにある850近い店舗を一時閉業すると発表した直後のことだ。

1990年、モスクワのプーシキン広場にマクドナルド第1号店がオープンしたとき、何千人もの列ができた。あのゴールデンアーチの到来は、国の内でも外でも、冷戦の終わりを告げる確かなしるしとして受け止められた。

この10年、ウラジーミル・プーチン大統領の下で独裁主義が強まってきたものの、国際ブランド各社はロシアでかなりの割合を占める中産階級の顧客のために、モスクワやその他の大都市で熱心に店を開け続けてきた。

ところが、2月24日の朝、ロシアがウクライナに侵攻し、すべてが変わってしまった。

国際企業がロシアから撤退する理由

そこから、国際企業が続々と撤退するという異例の事態になっている。たとえば、「トヨタ」「ハイネケン」「ナイキ」「アップル」「エクソン」「フォード」「ザラ」「ネットフリックス」「イケア」などだ。

「フィンランド国際問題研究所」と「ジュネーブ国際制裁ネットワーク」に所属する国際制裁の専門家マリア・シャギナは言う。

「今回の企業の集団脱出はじつに驚くべきことです。これが起こっている速度は現代史では未知のものです。ロシアはグローバル経済から完全に切り離されつつあります」

だが、シャギナによれば、ロシアでの事業を一時停止した企業の大半は、評判に傷がつくとの懸念からその決定を下したのだという。西側でこの戦争が強く嫌悪されていることに鑑みてだ。

ロシア当局がこれほど劇的な企業の大流出を予想してはいなかったと思われるひとつの証拠がある。与党のある高官が、ロシアから撤退した西側企業の事業を国営化すべきと訴えたのだ。

30年のつながりが10日でぶち壊された

打撃を受けているのは一般消費市場だけではない。3月7日にソーシャルメディアに投稿された動画には、ロシアの富裕層エリートに人気のモスクワの高級ショッピングセンター「ツム」のがらんとした売り場が映っていた。

「バーバーリー」「エルメス」「グッチ」「シャネル」「ルイ・ヴィトン」などほぼすべての主要ファッションブランドが事業を一時的に停止している。

3月7日には、出版大手「コンデ・ナスト」が出版活動を一時停止すると発表した。

ロシアは1990年代に逆戻りになる

アナリストたちはロシア経済の先行きが暗いと予測している。

国際金融協会(IIF)は、ロシアのGDPが2022年、15%縮小すると予測した。世界金融危機の落ち込みの2倍だ。

いまのところ、マクドナルドとイケアは従業員を雇い続けると発表している。だが、シャギナのような専門家たちは、この規模の外資撤退だと失業率が即座に上がるだろうと見ている。しかも、西側からの制裁の影響が感じられる前にだ。

ロシアのルーブルの価値は戦争が始まって以来、劇的に落ち、ドルとユーロに対しては半減している。株式市場も開戦以来、閉じている。金融大手「モルガン・スタンレー」は3月7日、ロシアが早ければ4月にも債務不履行に陥りうると発表した。

制裁によってインフレーションはさらに加速し、ロシアの購買力も損なわれると予想しているとシャギラは言う。

西側ブランドの集団脱出とあいまった大不況は、ロシア庶民の日常生活を激変させることになるかもしれないとシャギラは警戒する。

「ロシアは1990年代に逆戻りするでしょう。大半の人にとってはあまり安定していなかった時代にです」

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