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【第十四場…マジメン共和国】

《E氏→イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』のように旅しながらの遭遇ストーリーで、寓意に満ちている》

 マッチョロビン王国を出た三人は、さらに東へと向かいます。七日ほどすると立派な高い塀で囲まれたマジメン共和国に着きました。門があって、そこには門番が立っており、入る人間をチェックしています。入国料として一人三千ギロン用意しなければなりません。わたしは大丈夫ですが、詩人さんとありがとう星人のおじさんで二人ですので六千ギロン必要です。でも、わたしたちはマッチョロ王国でお金や宝石をたくさんおみやげに、いただいたので困りませんでした。
「はい、六千ギロン」
 と詩人さんが、お金を出しました。お金も宝石も詩人さんが管理しています。
「確か出るときには、返してくれるんだよね?」
 マジメン共和国では、もしものときのために三千ギロンの預かり金を預かるようにしていて、出るときにはきっちり返してくれるんです。ちゃんと預かり証を発行します。もちろん、お金の払えない人は入れません。信用第一の国です。
 マジメン共和国の人たちは、まじめさが一番の評価になっています。どこを見まわしてマジメン共和国の国民たちは、まじめに働いていました。まじめ評価値の検定が4年ごとに行われて、その総合点が一番高い人が共和国の大統領に選ばれます。今は十年連続でキリット大統領が選ばれていました。

 とにかく大統領がまじめに働きますから、大人はもちろん子どもたちも決して遊んだりしません。一生懸命に親の仕事を手伝うしっかり者ばかりです。わたしたちは、しばらくして気づきました。この国には娯楽がまったくないのです。笑顔はあるのですが、それは全部仕事の達成感からのもので、会話や遊びで心から笑っている場面には出くわしません。そうですから漫画やアニメはもちろん、スポーツも音楽もお笑いも芸術もありません。
 ありがとう星人のおじさんは、大道芸をすることにしました。頭を風船みたいにどんどんふくらませて浮かんで見せましたが、誰も寄ってきません。みんな、見向きもせずに黙々と働いています。得意のものまねもダメです。ありがとう星人のおじさんは、少し考えてから、五つの体に分かれました。
『ははーん。あれをやる気だな』
 詩人さんも、こないだのことを思い出したようで、急にむつかしい顔で考えはじめています。
 やはり五人のおじさんたちは、右手を網にして、空中のオンプ虫という虫を捕まえて、砂の上の五本線に楽譜を作りました。今度も楽器は、黄色いチェロと黄色いベースと黄色いタイコと黄色いギターと黄色いピアノです。そして、五人のおじさんたちは、それぞれの楽譜にしたがって演奏を始めました。軽快なリズムが流れます。今度は、五人のおじさんたちのコーラス付きです。

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