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政策起業とロビイングの違いについて(5)

2年前から、日本の政策起業家のノウハウや知見の蓄積、研究のためにPEPゼミというものが開催されており、これまで9回開催されました。それらの内容はこちらにまとまっていますので興味のある方はご覧ください。

「政策起業とロビイングの違い」については本記事が最後になります。

さて、「旧ロビー活動」は「あまりに私益だけ」を求めすぎたがあまりに、1980年〜90年ごろに批判にされてきたことから「新ロビー活動」が生まれてきました。しかしあくまでもロビー活動は「私益」が出発点であり、政策起業は「公益」が出発点であることが大きな違いであると整理をしました。その上で「公益」を「社会共通資本」をベースに整理し、政策起業の領域はある程度限定されている可能性があることも見えてきました。

近年では「パブリックアフェアーズ」という概念も登場しています。

これは、「自社に好都合なルールを獲得すべく公正、透明な方法で交渉し、合意を形成すること」と定義されており、従来のロビー活動に加えて、世論形成やメディアへのアピールなどを重点的に行うとされています。

しかしこちらも「自社に好都合なルールの獲得」を「公正な手段で行う」ということになるので、「私益から出発」していると捉えられます。ただし、社会的企業なども増えていることから「自社に好都合」というもののの捉え方次第では「公益となる」可能性もあると思います。

さらにより広い概念として「アドボカシー」が存在します。初期のアドボカシーの定義は、「ある集合的利害を代表して、制度的エリートの決定に影響を与えるために行われる何らかの試み」とされています。

近年では、「公共政策や世論、人々の意識や行動などに一定の影響を与えるために政府や社会に対して行われる団体の働きかけ」と定義され、手法として「裁判闘争」や「他団体との連合形成」が加えられています。

これらの政治的な働きかけと合わせて、当該政策で解決したい社会課題に関連する事業活動、社会活動を行うことで「政策起業」が行われると考えています。

こちらの事業活動や社会活動についてはもう少し詳細に検討していく必要があると思います。

これらのことは以下の図1のように整理されます。

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ロビイングなどとの違いを明確にできたかどうかはまだわかりませんが、

・ロビイングも「公益」からスタートしているロビイストもいるが、学術的な定義としては「私益」からスタートするのがロビイングである。

・政治的な働きかけだけではなく、当該事業に関連する何らかの活動と組み合わせる必要があるのが政策起業である。

・ロビイングはロビー活動を行えばロビイストと呼ばれる(行動)が、政策起業は、政策起業がなされて初めて政策起業家と呼ばれる(結果)。

などがポイントではないかと考えています。

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参考

柏木宏(2008)『NPOと政治―アドボカシーと社会変革の新たな担い手』明石書店

西谷武夫(2011)『パブリック・アフェアーズ戦略―ルールを制するものが市場を制す』東洋経済新報社

松井真理子(2017)「市民社会のアドボカシーの論点整理―「社会を変える」の実体化を目指して」四日市大学論集 第30巻 第1号

Jenkins(1987) “Nonprofit Organizations and Policy Advocacy” The Nonprofit Sector : A Research Handbook.

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これまでの政策起業家に関する記事一覧はこちらになります。

また、政策起業家の行動原理など、海外の30年間の研究蓄積がまとまっている書籍の翻訳本の出版を行います。30年分の差を、この1冊で埋められるとは思っていませんが、少しでも日本で早く「政策起業」が拡がればという思いでいます。


最後までお読みいただきありがとうございます。
日本では「政策起業家」に関する研究が非常に遅れています。
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