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#2 トゲトゲ・イン・トーキョー


若手芸人はトガりがちだ。


「トガる」と言う言葉は世間一般でも理解してもらえるワードなのだろうか。それとも業界用語のようなものなのか。とにかく、若手芸人は自分が一番面白いと思い込み、センスを見せつけたがる奴が多い。トガりまくりだ。芸人の養成所なんて側から見たら剣山だ。

実際、うちの事務所でもトガってるやつは多かった。同い年であるダブルチキン川上(note初の友情出演)はライブの度に「お前らには負けない」「今日はお前らよりウケた」とわざわざ俺に言いに来る。トガりすぎてもはや「ハリネズミ」だ。

でも対する私もトガっていた気がする。私は典型的なガツガツタイプではなく、そんなダブルチキン川上(俺らの友情は厚い)に対して「俺らはライブ全体の面白さしか求めてないから」「お前らめちゃくちゃウケてたなー!凄いわー!」と、勝負する気の無さをあからさまに見せていた。丸いふりをしてトガる。もはや「丸いふりをしてトガるやつ」だ。

さて、この「トガる」という行為。基本的には邪魔だと思っている。それは価値観やセンスだけの問題ではなく、その気持ちで面白フレーズをかましてもウケにくい。面白さよりも人間が見えてしまうからだ。


これを読んでいるトガった芸人たちよ。今すぐトガるという行為をやめた方が身のためだ。これはただの引きこもりニートである私の助言なのだから正しいに違いない。


さて、これは「お笑い」の話である。お笑いは相手がごく普通の一般人だからそうした方が良いのだ。しかしこれが「アート」なら話は変わってくる。

ピカソなんてトガりの範疇(画数多さよ)を超えている。それでもピカソが成功したのは「アート」だからなのだろう。お笑いならダダスベリかもしれない。家族団らんの茶の間ではピカソで笑うのはオタク気質の長男だけだ。

もう一つの理由は基礎が完璧に近いほどしっかりしているからだと思う。10代のピカソの絵は綺麗で細かい。ビフォーアフターの高低差ったらない。匠も仰天だ。

さて、私の激仲良し後輩にもトガりまくりアーティストがいる。彼の名は「Jin Kool」(滑稽なペンネームやさ)だ。

このじんくる君はとても優しく、気のきく良いやつだ。めちゃくちゃ丸い。フグだ。しかし絵になると突如としてハリを出し、フグではなくハリセンボンだったという事実を突きつける。

「ニーズに合ったモノは作りたくない」

じんくる君の言葉だ。笑ってしまう。伊江島タッチュー並みにトガってる。トガじんだ。それってニーズに合ってないものを作りたいのか?「あの絵良い!欲しい!」と絶対に言われない作品を作りたいのか?

まあでもアートや写真の作り手は基本トガる。理由は簡単だ。客もトガってるからだ。

「庶民には分からないだろうが俺にはこの絵の良さがわかる」

そう思っている客が多い。これも笑える。一般人のくせに何をトガっているのだ。でも、これが絵の良いところでもある。

さて、そんなトガじん君に絵を描くときに大事にしている事を聞いた。すると、「書いた絵をとにかく発信し続けること」だと教えてくれた。この言葉は僕とトガじんの尊敬するカリスマモデル&アパレルデザイナー「リサコ・イン・トーキョー」の言葉である。



リサコ・イン・トーキョー。



下の名前と大まかな現在地で構成されている。このイントーキョーさんはこう言い放った。

「作ること、発信することをしないアーティストはただの人。良い評価だろうが悪い評価だろうが発信し続けることが大事」

その通り。さすがイントーキョー。イントーキョー恐るべし。発信しなければ二酸化炭素を吐き出すだけのただの地球温暖化の原因にしかならなくなる。となると発信することはエコだ。いーしーおーだ。トガっていてもいいからこれだけはやるべきだ。


でも、ただ発信して続ければいいわけじゃない。私もジャンルは違えど漫才や合同コント、新作落語といった「作品」を作り上げてきた。その中で私が大事にしていることが2つある。1つは「幹」だ。その作品の幹。いわば「何を伝えたいのか」と「自分らしさ」が作品の幹になると思っている。それがなければどれだけ笑える漫才でも、どれだけ色とりどりな絵でも心に響かない。また見たいと思わない。幼児の吐息で飛んでいくほど薄っぺらい「良かった」の言葉を頂くだけの作品は自己満足に近い。

そしてもう1つが「愛情」だ。作品に対する愛情が必要だと思う。無くても良いように見えるがこれが意外とダイレクトに客に伝わる。「この作品のここが好き!」と声を大にして言える部分が必要だ。ただ、これは出来上がった後に好きな場所を見つけるのではなく、好きな場所、いわば言いたいフレーズや表現したい瞬間を元に作品を作るべきだと私は考えている。ネタを書くときはそれを最も大事にしている。

以前はテーマや何となくのボケを羅列し、その流れからネタを作っていた。これがなかなかウケない。そして好きでもないネタだから早いうちからグーグルドライブの奥の奥のフォルダにしまったままになる。そんなネタに演じて欲しいと泣き叫ばれることがあるが、好きでもないそのファイルは開くことすら許されない。逆に好きなネタ、表現のしたい部分のあるネタはめちゃくちゃ演る。毎回新ネタかの如くフレッシュに演ることが出来るため、急に閃いたアドリブを入れてもウケまくる。それがまたそのネタの一部として次回演じられ、その部分がまた好きになる。

酷い例えかもしれない。けど頭の中のイメージで言うと、「でき婚」の子供を作らないことが大事だ。

出来てしまったから好きになるんじゃない。好きでたまらない子供を作る。元々願って好きで授かった子供だからこそ他の好きな部分も見えてくる。でき婚の離婚率が高いように「出来ちゃったネタ」もカリーのフリースロー成功率と同じ確率でグーグルドライブで寝かしつけたままだ。子守唄も聞かさずに。

まあそんなこんなでトガるにも良い塩梅にトガらないとダメなのだ。自分を貫き通すのもいいが、勉強不足だったり人の意見を全無視してるならそれはただの自己中。トガったまま売れたように見える人たちはみんな基礎をしっかり勉強してる。そして命を授けた作品はずっと愛情を注ぐ。ただし盲目の愛はダメ。我が子でもダメなとこはダメとしっかり言う。これも一つの愛だ。



こんな話をしていたら急にグーグルドライブを整理したくなってしまい、スマホからドライブを開くとなんだか微かにすすり泣くような音がした。

「誰かいるのか?誰だ?」

そう聞いてみると

「パパ?僕だよ。僕たちここだよ。」

そんな声が聞こえた。急いで声の聞こえる「ネタ/台本」のフォルダに進んでいくとこれまで私が産んだネタたちが私に泣きながら訴えかけてきた。

「何で僕たちを育てないの?僕なんて産まれてから一度も板の前に行ってないんだよ?僕ポテンシャルあるよ?」

先に話しかけてきたのは漫才ネタの「学生時代の思い出」だった。

「ごめんな。俺はお前のこと大好きだった!でも当時の相方がお前のことよくない目で見てたんだ。それでお前と遊べなかった。」

「俺はどうなるんだよ!1度も演じてくれなかったじゃない!」

ああ、久々に声を聞いた。こいつ、誰だっけ?確か内容は帽子屋さんのコントだけど商品が全て下着ってやつ。下着を客にかぶせる。けど誰もツッコまず、そのまま帽子屋さんでありそうな会話が続くコントだ。内容はある程度覚えてるけど題名が思い出せない。

「本当にごめん。俺は面白いと思ってた。君を演るための、下着を買うためのお金がなかったんだ」

正直に話した。帽子屋のコントは何も言わずに下を向き、泣いた。他のネタたちも次々に育児放棄をした私に声を荒げて涙の訴えをした。私には響かない。響かないと分かってても叫ぶ。悪あがきのようなものなのか。ふと、右に目をやると厳つい目つきでこっちを睨んでるやつらが4人いた。そうだ。営業ネタたちだ。こいつらは大好きでいろんなところで演った。特に「童謡」と「デート」はいろんな場所で使い続けた。そうか、こいつらも私が漫才を辞めたせいでここにいるのか。でも自分は1軍というプライドと周りからの嫉妬によりグレてしまっている。全て私のせいだ。私は全てのネタたちに素直に謝ることにした。

「本当にごめん!!俺はもう、漫才師を辞めたんだ。だからお前たちをもう演じることはないんだ。」

みんな青ざめた。薄々気づいていることでも面と向かって言われるとショックだろう。気にせず続けた。

「でも、お前らのおかげで今の俺がいる。だから、本当にみんなには感謝してる!ありがとう!これからはお前らをそのまま演ることはないけど、お別れでも何でもない。お前らは俺の大好きな子供だ!今後落語の中に君たちを活かすチャンスはあるはずだ!だから、ごめん。許してくれ。みんなみんな、愛してる。」

涙を拭い、ネタたちの顔を1人1人見つめていく。怒りに満ち溢れた顔をしているかと、そう思って見つめた。だが意外なことにみんな笑顔だ。


本当はもどかしさがあるはずだ。でも誰も私を責めなかった。今後もあらかきしゅんの一部として、新しいネタの一部として私とともに生きていけると信じてくれているのだろう。私の書いたネタたちよ。本当に感謝している。結果としてどの作品も大切にするべきだ。私の生んだ作品たち。でもその作品によって私が育てられている。


それにしてもここまで、こんなわけのわからない文章を読んでくれた方々なら気付いただろう。この文章が、そして私が誰よりもトガっている気がする。ここまで読んでくれて本当にありがとうございます。最後だけ丸いのかよ。

シュン・イン・ヨミタン

私も下の名前と大まかな現在地で構成されてみたかった。


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