見出し画像

大腿骨転子部骨折 概要

1.疾患の概要,機序,性差,症状

 2002年における推計発生数は男25,300人,女 92,600人,計117,900人であり,発生数は15年間で男性は1.9倍,女性は 2.3倍増加した.

 発生率は40歳から年齢とともに増加し,70歳を過ぎると急激に増加している.

 2002年の全国 調査の年齢群別発生率が変化しないとすると2020年には約25万人,2030年には約30万人,2042年には約32万人の大腿骨頚部/転子部骨折の発生が推計される.

 高齢者における骨折型別の発生率については大腿骨転子部骨折の発生率は大腿骨頚部骨折の1.3~1.7 倍である.

 骨に関連した危険因子として,骨密度の低下,脆弱性骨折の既往,骨吸収マーカー(尿中Ⅰ型コラーゲン架橋C-テロペプチド:CTx,遊離型デオキシピリジノリン:D-Pyrなど)や骨形成マーカー(血清非カルボキシル化オステオカルシン:ucOC)の高値,血清ビタミンDの低値,非常に低い血清エストラジオール,血清ビタミンA濃度低値と高値,親の大腿骨頚部/転子部骨折の既往,甲状腺機能亢進症,性腺機能低下,胃切除術の既往,糖尿病,腎機能低下,膝痛,視力障害,大腿骨頚部長が長いことなどが挙げられる.

 骨に関連しない危険因子として,転倒回数が多いこと,喫煙,向精神薬の使用,加齢,低体重,多量のカフェイン摂取,未産,などが挙げられる.

 また骨密度の測定部位は大腿骨近位部が最も良いとされる.

 最多の発生原因は転倒である.骨粗鬆症により骨が脆弱した高齢女性に好発。

 受傷直後は起立不能となり、股関節は屈曲・外旋位となり患肢は短縮し、自動運動は不能となることが多い。

 病態と合併症としては大腿骨頭を栄養する血管は損傷されにくく大腿骨頭の血行は良好である。

 関節外骨折であるため関節包外は骨膜が存在し仮骨が形成される。海綿骨は血流が豊富なため出血量が多く大腿部に腫脹、皮下出血をきたすことがある。

 整復が不良な場合、変形癒合(内反、後捻、短縮など)をきたすことがある。

 大腿骨転子部骨折は骨折部位が関節外であるため、血流が豊富であり骨折治癒という面では大腿骨頸部骨折に対して有利である。

 しかし大腿骨転子部骨折の受傷者は大腿骨頸部骨折の受傷者より高齢であることが知られていて、合併症の増悪や新たな合併症が生じることを防ぐ必要がある。

 分類については骨折後の整復により安定性と不安定性を分けるEvansの分類と、複雑な骨折の形態を分類することができるJensenの分類がある。

 Jensenの分類では、転位のない完全骨折がⅠ型、転位のある完全骨折がⅡ型、転子部の完全骨折に加えて大転子部に骨折があるⅢ型、転子部の完全骨折に加えて小転子部に骨折があるⅣ型、転子部の完全骨折に加えて大転子部と小転子部に骨折があるⅤ型、そして骨折線の内側が近位で外側が遠位となているReversed typeに分類される。

 特にReversed typeは大腿骨転子部骨折に対する骨接合術として行われるCompression Hip Screw(CHS)、Dynamic Hip Screw(DHS)、ɤ-nailなどで使われるラグスクリューの挿入部分の近くが骨折線となることが多いため、骨接合術における固定性に影響を及ぼすことが多いと考えられている。

大腿骨転子部骨折に対する骨接合術として、CHSやDHSなどが行われていたが、ラグスクリューにかかるモーメントが大きいため、髄内釘を大転子の近位から髄内腔に挿入し、CHS、DHSと同じようにラグスクリューを大転子か外側からいれて、モーメントアームを短くしたɤ-nailが使われていることも多い。

 これら大腿骨転子部骨折に用いられるインプラントではラグスクリューのテレスコーピングによる近位、遠位骨片間のimpractionにより骨癒合を促進するが、ɤ-nailでは上記の理由により強固な固定を得ることができ、骨粗鬆症によるラグスクリューのcut outとなる確率も少なくなると期待されている。

 これらの骨接合術を施行した場合でも、転子部の骨折がreversed typeの時にはラグスクリューの挿入および固定が難しいとされる。

CHS(Compression Hip Screw)
 手術侵襲が少なく、安定型に対し適応が良い。ラグスクリューのテレスコーピングにより骨折部の圧迫が期待できる。

 ラグスクリューの刺入位置の不良、侵入程度により骨頭の内反変形やカットアウトを生じる。骨粗鬆症が著しい場合はプレートの脱転、プレート端の骨折が起こりうる。


ɤ―ネイル
安定型、不安定型に対して適応が良い。ラグスクリューのテレスコーピングにより骨折部の圧迫が期待できる。髄内に荷重軸があり、強固な固定力が得られる。閉鎖的手技により骨癒合や感染の防止に有利。

ラグスクリューの刺入位置の不良、侵入程度により骨頭の内反変形やカットアウトを生じる。遠位横止めスクリューによる大腿骨骨幹部骨折のリスクがある。

骨接合術による切開、侵襲
1.大転子の中央付近より大腿骨に沿うように遠位方向へ皮膚切開を行う

2.大腿筋膜・腸脛靭帯を切開して、大腿筋膜張筋や腸脛靭帯を切開する。               
3.外側広筋の筋膜を切開し、外側広筋と中間広筋を鈍的に分けて大腿骨に達する。 このような順番で切開していき手術を行う。そのため外側広筋とTFLの滑走が膝のスムーズな動きに必要。

大腿骨転子部骨折 評価 に続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?