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紀州鉄道と御坊の町

ホテル事業の信用の看板として運営されている紀州鉄道。ほとんど道楽として鉄道を運営するというのはまた羨ましい。

紀州鉄道 普通西御坊行 御坊1627→西御坊1635

JR御坊駅の改札から入り、左に進むと、切りかかれた0番線に1両のディーゼルカーが停まっている。この駅に紀州鉄道の駅員はいない。列車に乗り込むと、8人の乗客。平日の夕方にこの乗客数。

御坊駅を出てすぐにR150ほどの急曲線で左カーブ。20km/hほどで通過し、踏切を通る。肩身を狭い思いをしているだろう、のろのろとしか走れない鉄道が車を待たせているのは地位を逆転しているよう。

その後直線になっても保線状況が悪いのか30km/hほどしか出さない。1.5kmの学門駅までで4分かかる。

学問で女子高生2人、30代女性1人が下車。自転車で行っても10分もかからないだろう距離をなぜ1時間に1本しかない鉄道を使っているのだろうか?毎日同じ時間に学校が、仕事が終わって、毎日同じ列車に乗るのであれば十分なのか?

都心ではないが、10分に1本くらいは電車のあるようなところに育つと、1時間に1本しか列車の無いところの生活は、感覚レベルでは想像できない。見たままの事実があるわけで想像も何もないのだが、行動をとっている主体たる地元民の、その行動をとっている時の感覚を自分の中で再現して感じることは決してできない。

この列車から降りるまでの時間が友達と喋る大事な時間になっているのかもしれない。別に列車がいつ動き出してもいい。"1駅走って出るまで"、その単位の時間が重要なのであって、この列車が駅に着く"16時31分"という時刻が重要なのではない。これならたとえ1時間遅い列車でも変わらない。

そんなことを考える暇もなく、たった300mで紀伊御坊。1人下車。いくつか古い車両が置かれている。次の市役所前では乗降客がおらず、停まりはしたが扉は開かれなかった。運転手が後ろを見て乗降客がいないことを確認するだけ。

終点の西御坊駅で、自分を含めて残りの4人が下車。50cmくらいしか幅のない狭いホームに低い屋根。待合室は数人座れるベンチがあるけれど。

終点から起点方を望むと、レールがまっすぐでないことがすぐに見てとれる。これは30km/hになるわけだ。

西御坊駅は周囲の建物に比べるとずいぶんとこじんまりと、そして小さな小さな入口しか外に向けていない。

西御坊駅の前の通りは商店街があり、しっかりと店が開かれている。人の居住はしっかりとある。

西御坊駅から紀伊御坊駅に向けて歩く。

海がそこまで近くはないのに、壁面のかなりに板がはられている建物。なんのためにこうなっているのだろうか。

街の中で、周囲の道路の形状などから車通りが少ないだろうと思われるところは舗装がアスファルトではない。軒先に椅子を出してご老人方がおしゃべりを楽しんでいる。アスファルトではない舗装は、歩行者が大手を振るって歩いていい気がするし、ちょっとくらい椅子を出していてもいい気がする。

せっかく近所の人、友人などと一緒に使える、開かれた外部の空間があるのに、家の中に引きこもってTVを見るだけでは寂しい。あともう少し外に出て、リアルを楽しむ。ずっとそうするべきだとは言わない、夕方の10分だけでもいい。そんな時間、ゆとり、楽しみがあっていい。ここにはそれがあった。

紀伊御坊の駅が近づくとまた別の商店街にあたった。ちょうど17時、スピーカーから音楽が流れる。なんとYOASOBIの「夜に駆ける」。ここの商店街に似合わず、意外の感。

ただ、その先さらに駅の方へ向かうと、精肉店や鮮魚店など色々と店がちゃんと開いている。精肉店がとてもいい匂いを出しているので、吸い寄せられていくと、揚げたてのコロッケやメンチカツを売っている。温かでサクサクのメンチカツはとてもおいしい。

揚げたての揚げ物が売られているのは使う人がいる、元気な商店街の証拠。自分の後ろでも1人近所の人が買いに来ている。今夜の晩御飯かな?

紀伊御坊駅は紀州鉄道唯一の有人駅で、一応ちゃんとした建物がある。規模が大きいように見えるけど、1面1線の乗り場しかない。

中に入ると1人女性が列車を待っている。窓口で帰りの切符を所望する。買っている間に周りを見ていると、ここで扱っている硬券切符の全てを掲げた貼り紙がされている。悪い事業者だ。

子供用も他に3枚あったけれど、なんとなく辞めてしまい、残りの15枚を購入。それとは別にJR線連絡の硬券はいっぱいあり、大阪までなども買えるらしい。残念ながらここから先の切符はもうすでに購入しているから、御坊の隣駅までの硬券を購入。それを使って御坊駅まで。

紀州鉄道 普通御坊行 紀伊御坊1713→御坊1718

紀伊御坊に着く時点で5人乗車。紀伊御坊で自分ともう一人が乗車。学問駅で近くの高校の生徒と思しき学生が7人乗車。

流れる案内放送は「JR御坊行きワンマン列車です」と言う。自分も立派な鉄道なのに、ずいぶんと小さく出たものだと思う。また車を待たせながら20km/hくらいで踏切を通過して急曲線を曲がって御坊の駅の0番線に入った。


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