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『ウルトラセブン』で見る1960年代の鉄道

 『ウルトラセブン』は1967年から円谷プロ制作により1年間放送された特撮ヒーロー番組で、初代から数えてウルトラシリーズの第2作目にあたります。特撮ヒーローの中では国内でも知名度は高く、人生の中で何らかの形で『セブン』に触れた方は多いことでしょう。以前の記事で僕は『セブン』の魅力として「時代感の無さ」を指摘しましたが、同時に「時折見られる昭和の日本の情景」が織り込まれていることが素晴らしいと感じていることもこの記事でお話ししました。今回はその懐古的情景について「鉄道」という視点に絞ってその例を挙げていこうと思います。

第2話「緑の恐怖」 不朽の特急列車

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 始めに紹介するのは第2話「緑の恐怖」です。ワイアール星人が擬態した宇宙ステーションV3の石黒隊員とその妻が箱根旅行へ行くシーンがありますが、そこで小田急ロマンスカーが登場します。夫妻はロマンスカーに乗って箱根旅行へ向かいますが、その車中でワイアール星人は擬態を維持出来なくなり、植物状の正体を露わにします。車内はパニックになりますが、一連のシーンも実際に走行中のロマンスカーの車内で撮影されました。

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 星人を見た運転手は列車を緊急停車させ、トンネル内で乗客を避難させます。「トンネル内」として撮影された場所は、今は無き小田急経堂車庫を夜間に使用したものです。実際にトンネル内で列車を停める訳にはいかないので、線路があってある程度自由の利く「車庫」を撮影地に選んだのでしょう。ただ、ダンとアンヌが車内から救出した夫人を抱えてトンネルから出てくるシーンは実際のトンネルを使用しています。これは国鉄(現JR)御殿場線の箱根第七隧道で撮影されたものです。映像を見ると分かりますが、線路の上に電線がない、つまりまだ電化されておらず、気動車のみの運行でした。現実を考えればこの線路にロマンスカーが通るのは有り得ませんね。

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 ロマンスカーは都心から神奈川県を代表する観光地である箱根までを行き来する特急列車で、私鉄特急の中でも歴史はかなり古いです。乗っていたのは1963年に運行を開始した3100形NSEという車両で、1950年代に登場した3000形SEと呼ばれる特急車両をさらに改良し、ロマンスカーの代名詞とも言える先頭車両の展望席を設置し、11両編成とするなど、話題性と輸送力増強を同時に達成できる画期的なものでした。その後、娯楽の多様化や国民生活水準の向上によりロマンスカーは何度も改良がなされ、現在に至っています。

第5話「消された時間」 開通したての空港への足

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 2つ目は第5話「消された時間」に登場する東京モノレールです。物語の前半にレーダー開発の権威であるユシマ博士がウルトラ警備隊極東基地へやって来ますが、一般には非公開の「秘密エアポート」に到着した後、そこから基地へ直通する地下鉄道として、当時東京モノレールで使用されていた100形車両が登場します。東京モノレールは1964年9月に開業した路線で、首都高速道路や東海道新幹線と共に、1964年東京オリンピックの開催を機に浜松町駅から羽田空港を結ぶ重要な足として急ピッチで建設されました。開業当時は途中駅は無く、終点だった「羽田駅」も現在の終点である羽田空港第二ターミナル駅とは全く別の駅であり、『セブン』での登場シーンもその地下駅で撮影されたものです。

 開業してすぐの運賃設定は非常に高額で、海外旅行の自由化も解禁してすぐであったため、オリンピック期間を経由したといえど客足は伸びなかったようです。その後、大井競馬場駅や整備場駅などの途中駅が追加され、羽田空港へのアクセス性も向上して現在に至っています。国鉄の線路や東京湾を跨って走る姿は今では見慣れた光景ですが、都心から颯爽と空港へ向かうモノレールの勇姿は、当時の人々の目には近未来的なものに映ったことでしょう。『セブン』も時代設定としては近未来であるため、それを表現するために白羽の矢が立ったのが東京モノレールでした。

第8話「狙われた街」 人々の行き交う駅前

 この回は描写やメッセージ性から『セブン』の中でも最高傑作と名高い話ですが、実相寺氏の監督作品だけあって30分の中の至る所に、当時の街の様子を見る事が出来ます。その内の1つが、1967年当時の向ヶ丘遊園駅です。小田急小田原線の駅の1つですが、駅名にある「向ヶ丘遊園」という遊園地は1927年開業の歴史のある遊園地で、向ヶ丘遊園駅から正門へ向かうモノレールも存在しましたが、2002年に閉園となり、駅名にその名が残されています。

 登場するのは物語の前半、舞台である「北川町」にある「北川町駅」として向ヶ丘遊園駅は撮影で使用されています。駅前自販機でフルハシがタバコを購入しました。これは駅の改札口すぐに設置されており、現在ではATMとなっています。自販機の型としてはかなり初期のもので、当時はタバコを吸う事が大人の象徴であり、「カッコいい」の象徴でした。今では信じられませんが、この回では「人類の約半分はタバコを吸っているんですからね」という台詞もあり、生活の中でのタバコの浸透ぶりに驚かされます。

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 その後、北川町ではその駅前自販機で買ったタバコを吸った人が、発狂して人を殺傷する事件が相次いでいるため、ダンとアンヌは駅前で調査を始めます。自販機にタバコを入れるためにやってくる人が犯人だと目星を付けて張り込みを行なっていますが、2人は自販機の見える喫茶店で外を見つめています。この店は「スナックキャンパス」という喫茶店ですが、再開発と共に店は無くなってしまいました。現在はケンタッキーフライドチキン向ヶ丘遊園店となっており、二階へ行って窓からの景色を眺めようとしましたが先客がいらしたので、隣の、マクドナルド等が入っているワコー向ヶ丘ビルの階段から撮った景色を載せます。建物は大きく変わりましたが、基本的な街の構造や形は当時の面影を残しています。

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第24話「北へ還れ!」 昭和の気動車ローカル線

 第24話では北海道が舞台となるシーンがあります。冒頭、フルハシ隊員が北海道へ帰郷しますが、そこに北海道のローカル線と言わんばかりに雪景色と疾走する気動車が登場します。これは国鉄小海線(現JR東日本)で、八ヶ岳をバックに走っているのはキハ52形です。山梨県の小淵沢駅から長野県の小諸駅までを結んでおり、現在も電化はされておらず型式は変わりながらもディーゼル車が運行しています。

 降り立った架空の駅「美幌別」という駅は、小海線内の野辺山駅で撮影されました。映っているのは旧駅舎で、1983年に現在の駅舎に改築されました。この駅は1960年から普通鉄道としては日本で最も標高の高い場所に位置する駅となっています。物語の中では北海道ということになっていますが、鉄道のワンシーンのためだけに北海道へ行く筈もなく、首都圏近くでローカルな雰囲気と雪景色を撮れる小海線に白羽の矢が立ったのでしょう。

第45話「円盤が来た」 多摩川を渡る小田急線

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 この回では、現在「多摩川50景」にも選定されている五本松河原が登場します。町工場に勤める冴えない青年フクシンくんが、少年に化けたペロリンガ星人と会話をするシーンがありますが、後ろには小田急線が走っており、土手は登戸~和泉多摩川間と考えられます。多摩川鉄橋と呼ばれるこの鉄橋は現在は新しいものに替わっています。円谷プロの撮影スタジオは祖師谷にあったため、外ロケは小田急沿線が非常に多いです。向ヶ丘遊園もそうですが、砧公園や世田谷体育館も頻繁に使用されました。

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 ちなみに、2019年に放送された『ウルトラマンタイガ』では51年ぶりにペロリンガ星人が登場します。残念ながら当時フクシンくん役を演じた冷泉公裕さんは亡くなってしまいましたが、地球に残ったペロリンガ星人という設定の中年男性は、当時と同じ多摩川の土手を自転車で走っていました。


 さて、ここまで紹介していましたが、『セブン』には1960年代当時の雰囲気を知る事ができる要素が他にも散りばめられています。この記事では自分の趣味もあって「鉄道」というテーマに絞りましたが、いわゆる「ロケ地巡り」「聖地巡礼」に代表されるような、作品中の場所やものを自ら探してその時代感や一体感に浸るというのは、『セブン』に限らずどういった作品でも通用する楽しみ方であると思います。こうした見方・楽しみ方を発掘していくことで、一つの作品に対してより深く、付随して教養も身に付けられると私は考えていて、作品の大きな魅力として昇華されていると思っています。





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