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僕の作品に影響を与えている6つのこと

 2018年より絵を描き始め、誰とも会うことなく日々を過ごしていましたが、最近は絵を観たいと言ってくださったり、話を聞きたいと言ってくださる方々が増え始めました。
 必ずみなさんに聞かれるのが「なぜ絵を描き始めたのか?」です。それを語るには、必ず過去を思い出さなければならず、僕には少し辛い作業なので、この機会に文章にまとめることにしました。

 自分の絵画に影響を与えている6つのことを記します。強くインスピレーションを受けている事もあれば、拭い去りたくても拭い去れない苦しみもあります。


1. 大震災と原発事故

 2011年3月11日に発生した東日本大震災と、それに伴って起きた福島第一原子力発電所事故。僕は直接的な災害の影響をあまり受けませんでしたが、災害の二次的な要因で変化した社会環境や生活環境、人間関係の変化による精神的なダメージを大きく受けました。それらの出来事を深く思い出したくないので、細かくは記しません。

 当時、僕はグラフィックデザインの仕事を営んでいましたが、精神的に追い詰められ、仕事も全く手に付かない状態になってしまいました。自分の思うように身体が動かなくなり、気力も著しく少なくなってしまい、2年くらいは部屋に鬱々とし閉じ籠っている状態でした。心を亡くしてしまっていたのだろうと思います。

 そんなある時、心理カウンセラーに勧められたセラピーに出会いました。それは真っ白な紙に、自分の好きな色を自由に塗るという単純な方法でした。

 初めは半信半疑でしたが、もともとグラフィックデザイナーであったこともあり、色彩によるセラピーは、僕にとてもフィットしました。セラピーをひたすら続けることにより、僕は徐々に心を取り戻すことができ始めていました。


2. A4サイズの宇宙または自画像

 セラピーで描いたものは、描き上がった瞬間に捨てていました。いま考えると、残しておけば良かったかな?とも思いますが、僕の中に蓄積していた、悲しみや、苦しみ、怒りなどの感情が表現されているものを直視することができなかったのだと思います。

 それからは、描いては捨て、描いては捨てるという日々が続きました。
そして、それはセラピーを始めた2014年くらいから2年後の2016年の9月のある日に起きました。いままでは、無感情で描いては捨て、描いては捨てていたのですが、その日、描き上がったものを初めて美しいと思ったのです。僕には、いままでのようにそれを捨てることができませんでした。

 そこで僕はそれを『A4サイズの宇宙または自画像』と名づけて、ファイリングして保存しました。それから僕のセラピーは、描き上がった瞬間に捨てたいと思ったものは捨て、捨てたくないと思ったものは、ファイリングして保存するという方法に変わりました。

A4サイズの宇宙または自画像
A4サイズの宇宙または自画像
2016.09
Acrylic,Graphite,Crayon on Paper
297×210mm(A4)
A4サイズの宇宙または自画像
2016.10
Acrylic,Graphite,Crayon on Paper
297×210mm(A4)
A4サイズの宇宙または自画像
2016.10
Acrylic,Graphite,Crayon on Paper
297×210mm(A4)


3. 飛蚊症と光視症による孤独と疎外感

 僕が成人してから分かったことなのですが、僕は先天性の飛蚊症と光視症を患っています。
 視覚の中に大小さまざまなノイズがあったり、カラフルな色のレイヤーが重なったり、特定の色が強調されて見えたり、白色度の強い空間にいると気持ち悪くなったりしてしまうという症状をずっと抱えています。
医者は治療により治るものではなく、そもそも生まれ持っている体質だといいます。

 この症状が成人になって分かるまで、例えば幼少期の僕は、皆も自分と同じような世界を見ていると思っていました。
それによって会話が噛み合わなかったり、表現することが他人と違いました。その為に虐められたり、変人扱いをされたことを覚えています。
それは大人になってデザイナーとして仕事をしていく上でも、多くの障害でした。

  自分の眼で見ているものが、多くの人と違うということ。そしてそれを言葉で説明しても、なかなか理解をしてもらうことは難しいこと。さらにはそれによって嫌われたり、変人扱いをされるということは、いまでも僕にとって大きな孤独感や、疎外感として、のしかかっています。


4. 絵画との出会い

 話は僕が続けていたセラピーに戻ります。2014年から2017年までの3年間、セラピーを続け、残しておきたいと思うものに『A4サイズの宇宙または自画像』と名付けているものが16枚ファイリングされました。
しかし、その10倍以上の数は捨てられています。今考えると残しておけば良かったと思いますが、その時点の僕は、これらを作品として思っていませんでした。あくまでもセラピーとしての作業の延長だったのです。

 ところが、2018年の1月。僕はふと人物像を描きたいと思いました。セラピーで描いている色彩面から、ぼんやりと人物像が浮かび上がってきたからです。これはセラピーで描いている残しておきたいものに『A4サイズの宇宙または自画像』と名付けているくらいでしたので、自然な流れだったのかもしれません。
 この日から僕は、セラピーとして描いているものを絵として自覚するようになりました。そこから現在まで人物像を描き続けています。これが僕の絵画との出会いです。

man
2018
Acrylic,Graphite,Crayon on Paper
760 × 560 mm
React
2018
Acrylic,Graphite,Crayon on Paper
760 × 560 mm
Shadow
2021
Acrylic,Graphite,Crayon on Paper
760 × 560 mm


 僕の描く人物画は、僕自身であり、また僕以外の誰か、それらが混ざり合って生み出されているように思います。

作品の一部は『instagram』にて公開しています。https://www.instagram.com/shun.kuro/


5.ゴッホとベーコン

 僕は、まだまだ不安定な精神が残っていますが、人物像を描き始めてからは、精神的には安定した日々を過ごせるようになっていました。ときおり、過去の記憶などがフラッシュバックして苦しい思いをしますが、その度に絵を描くことによって救われています。

 絵を描くことに深く入り込む日々となってから、僕はゴッホ(Vincent Willem van Gogh 1853-1890)の作品と彼の人生に共感するようになりました。
 ゴッホの送ってきた人生と、自分のここまでの人生に、いくつかの類似点を感じています。また、ゴッホの描く人物画の輪郭や面、夜景画の作品の光のうねりの表現が、僕の見ている世界にとても似ています。

 ゴッホの絵画を敬愛し、たくさん模写している作家にベーコン(Francis Bacon 1909-1992)がいます。彼の描く絵画にもゴッホと同じく、僕の見ている世界に酷似している部分が多くあります。

 ゴッホとベーコン、この2人の画家に僕は大きな影響を受けています。彼らの作品に触れることによって、僕の疎外感や孤独が癒されます。


6. ラヴレス

 僕は絵を描いている時、ほとんどの時間で、音楽を流し聴きしながら描いています。音楽から受ける影響は大きいです。

 特にアイルランドのロックバンド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)の2作目のアルバム『ラヴレス』(loveless)は、そのノイズやメロディが、僕の見ている世界にとても近く、その音が色の粒子や、波のように見える感覚に襲われます。

 音色について言葉で語る事はとても難しいので、下記に『spotify』のリンクを記します。

 その他にもたくさんの音楽に日々、影響を受けていますが、こちらは別の機会に記そうと思います。


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