正月金沢紀行 前編
一度、自分一人だけで遠出してみたかった。行く先、すること、食べるものなど、何から何まで自分の思うままにやってみたかった。そんな思いがこの旅行のきっかけだった。
旅行先にこだわりはなかった。あくまでメインは一人旅。どこでも楽しんでやるつもりだった。
最終的に、旅行先は金沢方面、もっといえば東尋坊に決まった。これは、米沢穂信さんの『ボトルネック』という青春小説に影響された。作り込まれたミステリー要素と、異世界的な設定、それによって主人公につきつけられる残酷な事実。その舞台となった金沢や東尋坊までの道中で、物語の登場人物の心情に思いを馳せ感慨深くなるのは本旅行のサブぷちテーマでもある。
さて、今回の旅は、年越しを夜行バスで過ごし元旦に金沢着、まず金澤神社で初詣、入園無料の兼六園を軽く散策したのち、東尋坊で真冬の日本海に黄昏、帰路に芦原温泉で冷えた体を温め、夜行バスで仙台に帰るという旅程だ。21世紀美術館にも足を運びたかったのだが、元旦は開館しておらず諦めた。
12月31日20時頃、自宅を出発。大晦日ということもあって、この便が自宅付近から仙台駅までの最終便だった。夜行バスの出発が22:30。駅で2時間近く暇を潰さなくてはいけないことになる。
駅では、多くの飲食店がすでに閉店、もしくはまもなく店じまいしようとしていた。これから新年を迎えようというのに、飲食店で時間を潰そうとする自分は明らかに異質だった。仙台駅東口へと伸びる風通しの良い通路のベンチで凍えるしかないと諦めかけていた矢先、24時間営業のマクドナルドが匿ってくれた。ここ最近、値段が張る分クオリティの高いモスバーガーに傾倒し始めていたのだが、考え直さなくてはいけない。本当に助かった。
夜行バスに乗車。初の夜行バス。座席は三列が独立していて、プライベートカーテンも設置されている。走り出してから20分も立たないで、車内は消灯されるそうだ。急いでメルティキッスを口に放り込む。CMでテーマソングを耳にすると冬の訪れを感じるのだが、今まで食べたことがなかった。パッケージのイラストみたいにココアパウダーでコーティングされてはいなかったけど、久々に食べたチョコレートは美味しかった。
年越しの瞬間までは、Spotifyで今年お世話になった曲のアルバムのシャッフル再生を聴いていた。気がつけば23:50。いつの間にかうたた寝をしていて、まだ年を越していないことを確認して安堵。Spotifyのランダム性に委ねた結果、年越しのお供はKing Gnuの「逆夢」に決定。他の乗客は寝ているのか、これまでで最も静寂な年越しの瞬間を過ごした。
元旦の太陽に照らされて、目が覚める。いや、リクライニングシートでの睡眠に慣れず1時間おきに目が覚めていた。太平洋側を中心とした大雪の影響で、バスは45分の遅延。金沢に到着してから乗りたかったバスの始発がゆったりしていたのが幸いして、あまりに旅程に影響はなかった。金沢駅到着後、鼓門の写真を撮ってから「えきべん」というお店で朝食。能登牛コロッケの味に感激。一人暮らしだと惣菜で買わない限り揚げ物は作らないから、久々に食べたというのもあるかもしれない。
早く到着した左回りの金沢観光周遊バスに乗車。偶然乗った左回りルートのバスが21世紀美術館経由だったので、外観をひと目見られたのでラッキーだった。
兼六園下のバス停で下車し、まず浅野川へ向かう。金沢城を挟むように流れる浅野川、犀川。中でも浅野川は『ボトルネック』でも重要な舞台で、時間に余裕のある今のうちに巡っておくべき場所だった。正月駅伝?ランナーたちを横目に再びバス停付近まで戻り、兼六坂を登って金澤神社へ。お賽銭の五円玉が賽銭箱で弾んで向こうへいってしまったのが悔やまれる。
高校の恩師の、「大吉のおみくじに無責任に『~でしょう』ではなく『~しなさい』と書いてあった。おみくじの結果を実現させるかは当人に委ねられているんだ」というエピソードを思い出して、願い事は「勉強します」という「意思表明・決意」にしておいた。
おみくじは大吉だった。三年連続で大吉を引いていることを、ここで自慢しておきたい。実は大吉は一番グレードが高いからといってそこまでレアなものでもないのかもしれない。バスの時間が迫っているので、早足で兼六園を一周し金沢を一望してから、兼六坂を下って同じく左回りルートのバスで金沢駅まで。
続く。
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