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【過去メルマガPick Up】『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』

主催するメルマガ
『陣内俊の読むラジオ』の、
過去記事からピックアップして、
読んだ本や見た映画を紹介していきます。

今回は、、、、

『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』

著者:福田直子
出版年:2018年
出版社:集英社新書

リンク:
https://tinyurl.com/y5jr86dm

▼140文字ブリーフィング

トランプ大統領の扇動により、
Qアノンなどの陰謀論を信じる暴徒が、
議場に乱入したあの事件は、
世界史的な大事件です。
(なぜか日本での報道は異様に小さくて、
 そっちに私は驚きましたが)

これにインターネットが関わっていることは
まず間違いありません。
具体的には
「フィルターバブル」、
「エコーチャンバー」、
「ポーラライゼーション」などの、
SNSを通した意見の極性化と、
再帰的自家中毒により、
一度インターネットによって「目覚めてしまった」人は、
元の世界に戻ってくることが難しくなる。

彼らは主観的にはマトリックスのネオのように、
「周囲は赤いカプセルを飲んでいない。
 俺が社会を目覚めさせねば!」
みたいになる。
ここからまともな社会に戻ってくることは、
非常に難しい。

「マトリックス史観」にはまり込んだ、
「覚醒した人」を正気に戻すのは、
我々のような凡人にはできません。
力なく、
「一日中スマホ見てないで、
 新聞とか本とか読んだ方が良いと思うけど、、、」
と呟くぐらいしかできない。

そういった状況が、
どうして起こるのかを説明している本です。

本書で新しく知って心底驚いた、
二つの事実を紹介します。

ひとつは「価格個別化・ダイナミックプライシング」という概念です。
我々がスクリーン上で見せられている「価格」は、
実は隣人に提示されている価格と違うかもしれない、
という驚愕の事実です。

→P27~28 
〈すでに多くの航空会社は、
利用者の過去の購入履歴、
ネット行動やブラウザー履歴などから独自開発した
人工知能(AI)のボット(Bot=自動化されたアプリケーション)で
料金を提示しているという。たとえば、利用者が何回も閲覧しているうちに、ボットが「これはきっと、購入しようと思っている」と判断し、
少し高めの価格を提示したりする。
一方、利用者は
「前に見たときは安めだったけれど、仕方ない」
としぶしぶ買うかもしれない。
これは「このぐらいであれば払うだろう」という価格が
利用者事に個別に設定されてしまう
ネット上の「価格個別化」である。
つまり、ブラウザー履歴からすると
何回も価格のサイトを見ているので、
「この消費者はどうしても買いたがっている」と判断され、
「やや高めの価格であっても買うだろう」と「価格が予測」される。
これは消費者にとって有利にならず、
サービス提供者や商品を売る側が有利となる。価格がどう設定されるか、
アルゴリズムがどうプログラムされ、
どの情報からどのように決定されるかの詳細は、
消費者には一切知らされない。
むろん、法外な値段を押しつけることはできないかもしれないが、
少しずつ価格を変えれば消費者は気がつかないかもしれない。
 (中略)
このような「価格の個別化」が、
顧客の購買意欲に応じて価格を変えて収益を上げる
「ダイナミックプライシング」である。
このネーミングだけを聞けば、何やら近未来的で、
「価格不平等化」は見えてこない。
しかし、これは消費者にとって
極めて不平等な資本主義の到来を意味している。〉


、、、経済学では、
「情報の非対称性」が、
競争や価格設定を歪ませるといいます。
インターネットの登場により、
情報の非対称性がなくなったから、
消費者にとって公正な価格付けが行われるようになった、
とリバタリアンの経済学者たちは歓喜していました。

しかし、今また時代は前近代に戻ったようです。

売り手はアルゴリズムを用いて、
「情報の非対称性」をまた作り出し、
利益を最大化しようとしています。
あなたの所得、支払い能力、
それが必要だという切迫性などを、
アルゴリズムが判定し、
そして「ふっかけてくる」のです。
我々は「ふっかけられている」ことにすら気づかない。

すごくないですか?

もうひとつの驚愕の事実は、
デジタルネイティブ世代の方が、
フェイクニュースに対して免疫がないという悲しい事実です。
デジタルネイティブ世代は、
物心ついた頃から情報端末に触れていて、
使いこなし方も知っているから、
直感的には逆だろ、と思うのですが、
研究は直観に反する結果を出しています。

→P134~135 
〈2016年、スタンフォード大学歴史教育研究グループ(SHEG)が、
若者の「ニュース読解力(リテラシー)」について研究報告をした。ソーシャルメディアのフィードについて、
フェイスブックやツイッターのニュース、
読者のニュースサイトの書き込み、
ブロガーの文章や写真など、
いわゆる現代の世論を形成する情報源について
若者がどのように受け止めているかが調べられた。
それで判明したのは、
ソーシャルメディアと共に育ってきた世代が、
デジタルメディアが発信する情報に対し、
いかに無警戒かということだった。たとえば、あるサイトを見て、
どれがニュースで、どれが広告記事であるかということを
約200人の中学生に聞いてみたところ、
80%以上が、「スポンサー記事」とあった広告記事を、
ニュース記事であると思っていた。また、検証済みのニュース記事と
偽ニュースを高校生に見せたところ、
30%の学生が偽ニュースの方が
グラフもあって本物に見えると答えた。報告によれば、
ソーシャルメディアに慣れ親しんで育ってきた若者は、
情報源を確認し、
その内容が本当であるかどうかを調べようとせず、
ソーシャルメディア上にある情報を鵜呑みにしがちだという。大学生を対象としては、
学生がネット検索で得た情報のうち、
反対の意見がどう間違っているか、
相対する内容の情報をどう理由付けするか、
信用できるウェブサイトであるか、などが調べられた。大学生レベルでも、
やはり「本物に見えるウェブサイトに書いてある偽ニュース」
を信用しがちであったという。これに対し、
アナログ時代のマスコミ情報に慣れ親しんできた者であれば、
ネット検索によって見慣れないサイトが出て来た場合、
そのサイトがどういう組織であるか、
誰が出資しているかなど、
サイトの信用度をチェックするであろう。〉


、、、恐ろしい話です。
Qアノン的なるものにとっては天国のような時代が、
訪れようとしている。
まともな人間にとっては地獄です。
「事実・真実は何か」が、
もはや意味をなさなくなるのですから。
世界の底が抜けるような話です。

著者はネット(SNS)を使うための免許を、
運転免許のようなかたちで導入すべきと言う議論も紹介しています。
じっさいには難しいでしょうが、
言わんとすることには私も賛成です。
人類は明らかに、まだネットを使いこなせていません。
(2,617文字)

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