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長い夜を歩くということ

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【この夜はまだ明けない。まだ、明けて欲しくない。】 「雨は朝でも昼でもなく、夜に降るものが一番好きだ。なぜなら夜の雨は黒く、家や街すらも塗りつぶし忘れさせてくれる。そんな気がす…
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#連載

長い夜を歩くということ 92

「なんだ、最近おかしいと思ってたらそういうことだったのね」 彼は呆気に取られて、ただ彼女…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 93

 「夕食は家で食べようよ」 そう言った彼女に彼は同意した。夕食を作る時間から一緒に居られ…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 94

 夕食はいつもよりもなぜか美味しく感じた。味の細やかな違いに気づき、それを味わうことがで…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 95

バラエティ番組の笑い声に混じって、横から何かが聞こえた。 あっさりと明るく流れたその音は…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 96

彼女は彼が一番大好きな白い歯を全部見せてくれる笑顔をした。 反射的に出しかけた言葉は沈め…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 97

「これを君に受け取ってほしい」 彼女の手を取り、開いた手のひらに指輪を置いた。 彼女の貼…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 98

 彼は頭の上から熱がゆっくりと抜けて消えていくのを感じた。それは仕事で部下が大失敗を犯した時の対応を考える時に似ていた。そして、そんなことが何よりも先に頭によぎった自分が許せなかった。 しかし、感情はついてくることはなかった。 「真二はね、知ってたんだよ」 彼女はまだ流れる涙を拭きながら、それでも、どうにかして私の知っている彼女であろうとしている。彼はそう思った。 「昨日の人に会う前からずっとね。私と一緒にいるってことがどういうことなのか。だから、知ってたから、私と付

長い夜を歩くということ 99

 彼は今すぐにでも自分の心臓を貫きたかった。 どうにかして自分を殺してしまいたかった。 …

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 100

「でも、それでも、やっぱり私は地球にはいられないよ。私は…ここでは”ただの人”ではないか…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 101

 夜が明けて、月は無言で彼女を連れ帰っていた。 朝起きた時、ベッドに彼女がいないことをた…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 102

 抜け殻となった彼に残ったものは社長という肩書きだけだった。浮かびあがろうとする感情を彼…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 103

 神山さんの両目からは途切れることのない涙が流れ、笑顔で刻まれるはずの皺にそれは吸い込ま…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 104

「私が君くらいの歳の時は…ちょうど杏奈に泣きついていた歳くらいじゃないか?私も君ほどの落…

しゅん
2年前
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長い夜を歩くということ 105

「申し訳ありません。あいにく手持ち無沙汰なもので、このようなものしかなく、ご容赦いただければ幸いです」 私は彼に名刺を手渡すと今度は私が名刺をもらった。 「これが私の最後の名刺交換だな」 と神山さんは初めて名刺交換をした新人のように微笑み、じっくりと名刺を眺めていた。 「ほう、お医者さんだったんですね。これは意外でした。」 神山さんはそう言うとと一つの場所を見て止まっていた。私が彼の視線の先をたどった時、陽だまりのように優しく包む声が私の肌に触れた。 「そうですか