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ロージナの風:武装行儀見習いアリアズナの冒険 #12

第一章 解帆:12

なんだか釈然としなかったけれど、わたしが知りたいことは誰に聞いても教えてもらえそうにないのだけは確かだった。

仕方がないので、取りあえずはわたしもそのままマドレーヌと紅茶を楽しむことにした。

 しばらくすると、多分どこか別の班の友達のところで道草を食っていたと思われる、右舷直第二班最後の一人であるリンさんが戻ってきた。

リンさんは席に着くと自分のカップにお茶を注ぎ、マドレーヌを頬張ると早速お茶会の仲間に加わった。

女の子同士の他愛のないおしゃべりは、本当に他愛のないものだ。

プリンスエドワード島の美味しいもの事情やら、観光スポットの話題やら、アキコさんも普通の女の子モードで姦し喧しタイム全開だった。

いかにもという感じで笑ってしまったのだけれど、パットさんは島の情報に異様に詳しかった。

さっそく付箋をいっぱい付けた分厚いガイドブックまで持ち出してきたのだ。

パットさんのまるで見てきたかのようなお奨めスポットの解説で、焚き火に油をぶちまける勢いで更におしゃべりが盛り上がった。

騒ぎを聞きつけて、通路を挟んだ反対側をあじととする左舷直の連中まで乱入してきて、もうなんだかお祭り騒ぎみたいになってしまった。村に帰るのが大幅に遅れそうだと心配する人なんて誰もいなかった。

それよりもなによりも、都市連合の首都トランターより豊かで美しいとされる、プリンスエドワード島はキャベンディッシュ市の港に入港するという思いがけないサプライズなのだ。

そのことは、乙女たちの血中アドレナリン濃度をマックスにしたようだった。

パットさんがガイドブックのイラストを指先で叩きながら、島で一番と評判の甘味処について熱く語り始めたときだった。

「このグリーンゲイブルズのクリームブリュレと、注文した後に焼き始めてくださるスフレを逃したら一生後悔するに違いないと思うの。

それでね・・」

「みんな聞けー。

注目!」

「わん!わん!」

突然ボーイソプラノの様に凛と澄んだ声が、突風の様に中甲板を駆け抜けた。

スキッパーの吠え声が、注意喚起の号笛さながらに続いた。

一瞬のうちに学校の休み時間に似た喧騒が静まり、みんなが声のした方に顔を向けた。

その統制の取れた動きは、なんだか警戒中のミーアキャットみたいだった。

ラッタルの所には、上気した顔で瞳を輝かせた小柄な少女が、足を開いて仁王立ちしていた。

わたしたち右舷直第二班と対になる左舷直第二班のメンバーで、わたしの幼馴染かつ悪友でもあるディアナ・ライト・バーリーその人だった。

彼女の脇ではスキッパーが分別臭い表情を浮かべてしっぽを立てていた。

 ディアナは酔狂にも、アナポリス島にある都市連合海軍の兵学校を志望していた。

非番の空き時間も熱心なことに副長や掌帆長にお願いして、数学や地理など受験に必要な学科の教えを受けていた。

アキコさんとは別の意味で、その正気を疑うわたしの幼馴染みだった。

左舷直第二班もわたしたちと同時に非番に入ったはずなのに、彼女が下甲板に居なかったのは、大方そうした関係のことだったのだろう。

 「ダイですか。どーしました」

騒ぎに加わっていた左舷直第二班班長のサナコ・リー・サカモト予備役兵曹さんが少し顔を引き締めて問いかけた。

サナコさんはクララさんと同期の黒髪がチャーミングな航海士だった。

主な持ち場は水平帆を操作する舵輪がある上甲板だったが、海図を広げて副長と額を突き合わせている姿をよく見かけた。

「本船の進路直交の海上にアンノウンを視認。フォアマストトップ台員のシンクレアさんからの第一報でーす」

「アンノウンのマストは何本だ。

船種もしくは艦種は?」

「マストは3本。

船の種類は今の所不明」

そこにいた全員が一斉にハッチに向かって走りだした。

 海は広く、増して一般商用航路を外れたこの辺りで海の船に行き会うなんてことは、とても珍しいことだった。

所属や船の種類も気になるけれども、そんなことは上が心配すること。

今日は快晴で視程距離も長いから見物にはもってこいだ。

空から眺める帆船の巡航は、それはそれは美しいのだ。

三本マストなら結構大きな船に違いない。

船によっては海の貴婦人に例えられる位に優美なのだから、ここで見逃す手はなかった。

武装行儀見習いみたいな下っ端に限らず、水婦はみんな慢性的に娯楽に飢えていた。

そこに降ってわいた様なサプライズイベントの第二弾だよ?

まるで追加のボーナスイベントみたいで、みんなそろって大興奮だった。

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