見出し画像

垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 23

 「本当なら円君も三島さんと双方向で読心ができると思うのです。
それができないのは、円君の心にある何かがそれをブロックしているのでしょう。
円君って文字通り心の底から紳士なのかもですよ?」
顔がにやけてしまったが、そんな訳あるかと僕のダイモーンが嘲笑を浴びせてくる。
「橘さん。
あなたが病気や加齢を体験した世界線では、ある時期に毛利さんが亡くなっていたのでは無いですか?
恐らくその時点で残された方々のドナムも使えなくなったのだと思います。
ちがいますか?」
「・・・仰る通りです」
橘さんの表情からふわっとした優し気な面差しが消える。
「毛利さんが亡くなると、橘さんを除いた他の皆さんと円君のドナムが機能しなくなると推察されます。
橘さんは円君が再起動するためのリセットスイッチと言う役回りなのでしょう。
秋吉さんはこの世界線で初登場と言うことですが、おそらく同じことがいえるでしょうね。
正直、円君がばらまいたドナムは非常に厄介と言わざるを得ません。
どう対処するのがベストなのか・・・」 
 刹那。
橘さんの表情が変わる。
こんな怖い顔をした橘さんを僕は始めて見るよ。
それは彼女の隠されたペルソナ。
超一流の兵士がこれから戦闘に入る時の顔かもしれない。
シスター藤原の対策を考えねばと言う口振りに何か不穏な気配を嗅ぎ取ったのだろう。
ことと次第によっては・・・という橘さんの意志・・・殺意なのだろうか。
それは安全装置が外れる気配となって橘さんから伝わってきた。
言葉にしなくても、僕は“あきれたがーるず”の気持ちを自然に理解できるようになったかも知れない。
 「・・・そんな怖いお顔をしないで下さいな。
今橘さんが何を想定なさっていかに行動すべきかを瞬時に構想したことは・・・。
その理由はわたくしには充分了解できていますから、どうぞ鉾を収めてくださいまし。
いかなる意味においても、円君にも毛利さんにも・・・。
円君のセントラルドナムに危害を加える意思はわたくしには絶対ありません。
それはOFUにも桜楓会にもその意志がないと言うことと同義です。
・・・毛利さん、三島さん。
お願いですから・・・どうぞお口添えをお願いします」
 橘さんが事と次第によっては、殺意?を原動力として具体的に何をおっぱじめようとしているのか。
僕としては皆目見当が付かない。
けれども、小刻みに震えながら顔を引きつらせている。
シスター藤原のそんな様子からすると、剣呑と言うかなんと言うか。
彼女が物騒な事態を予想して心の底から怯えているのは見るだけで分かる。
シスター藤原はドナムを使って橘さんの五感に入り込み、そこに震えあがるほどに恐ろしい何かを見たのだろう。
 「「佐那子さん聞いてください。
少なくとも近い未来に於いてマドカ=まどか=円及びルーシーの肉体や精神に、OFUが干渉したり存在を排除に及ぶ選択肢は読み取れません。
同時にあなたや雪美、晶子への侵襲的害意も今のところは認められません。
遠い未来については不確かではあります。
ルーシー=雪美はシスター藤原の意識を随時精査して、危機を確認次第みなにすぐ知らせます。
先程シスター藤原に良い事をお聞きしました。
ルーシーもマドカ=まどか=円と同様。
雪美と晶子のドナムを引き出す事ができるはずだと。
どうやらシスター藤原の仰る通りのようです」
手を繋いだ先輩と三島さんがまるで合わせ鏡の様に寸分違わぬ笑みを浮かべる。
例えようもなく美しく凄絶な笑みだった。
「ですから。
ルーシー=雪美はマドカが不在でも随時機能可能である事を皆様ご留意下さい。
場合よってはルーシー=雪美がシスター藤原に対して即時の処置を施します。
後顧に憂いを残す事は決してありません」
シスターの顔色が真っ白になる。
「そのことを今はっきりシスター藤原にお伝えしました。
シスター藤原。
ご理解いただけましたね。
・・・ですから佐那子さん。
既に用意のある対抗手段に加えて、我々が更なる準備を整える時間はたっぷりあります。
ここはひとまず引いてください。
今は未だその時ではありません。
繰り返します。
今は未だその時ではありません」」
シスター藤原を眺める先輩と三島さんの冷たい視線は、橘さんの殺意?より遥かに恐ろしい。
ふたりの完全に同調したソプラノは、天使の声の様に清らかで、死神の囁きの様に無慈悲だ。
シスター藤原ばかりではなく、萩原さんとヒッピー藤原も戦慄しているのが分かる。
三人の大きく見開かれた目は、これから捕食されようとしてる草食動物の目だ。
『ふたりとも〜勘弁してよ〜。
橘さんよりずっと怖いですから〜』
ここだけの話。
僕はちょこっとチビったよ?
編集


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?