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サッカーでは手を使え!

※フィクションです。

「今日からは手を使ってサッカーをします」

こんなことを宣言した気分だった。

「はぁ?」と驚く後輩。
「どうしたの?」と心配する同僚。
「ふざけてんのか いい加減にしろ」と怒る上司。

こんな風に周りの人達はわたしを見ていた。

そうなるのも無理もない。そのくらい突拍子もないことを言ったんだから。

今日わたしは「1年間海外で暮らしてみたいので、会社をやめます!」と、宣言したのだ。


もともと、「バリバリに働きたい! キャリアアップ!!」みたいなタイプじゃなかったし、20代の1年間くらいキャリアに穴が空いたって、十分取り戻せる。と思った。
そのためにお金も貯めたし、英語の勉強も頑張った。仕事の引き継ぎもちゃんと全うするつもりだし、わたしなりに十分考えた上での決断だった。

なのに周りの人達は、ワールドカップの決勝で手を使って退場した人を見るような目でわたしを見ていた。

サッカーでは手を使ってはいけない。そんなのわたしだって知っている。なぜならそういうルールがあるから。偉い人が決めたルールブックに書いてあるから。
ルールを守らない人はスポーツをやる資格は無い。ルールが無ければスポーツは成立しないし、ルールがあるからこそ、より面白いものになると思う。

じゃあ、わたしの人生は……? わたしの生き方は……?

もちろんスポーツのようにルールはない。でも、今の社会ではまるで会社の就業規則みたいに、人生の生存規則みたいなものがあると思う。
「そんなものないよ(笑)」とみんな笑うけれど、事実、今日は丸一日ジロジロ見られ、こそこそ噂話をされた。まるで規則を破った人みたいに。

「なんかあったのかな」
「マンガの読みすぎじゃない?」
「働きすぎておかしくなったんだよ」

そんな声がちらほら聞こえてきた。

そんなやつらにこうやって言ってやりたかった。


「わたし、なにかルールを破りましたか?」


ずーっと前からモヤモヤしていた。
人は、生きていく中で誰しも「人生のルールブック」を配られる瞬間があると思う。

「とりあえず大企業に入ること」
「生まれたからには何かを頑張らなければいけない」

こんな掟が書いてあるルールブックを配られて、人はそれを読みながら生きていく。
「周りの人たちも同じルールブックを持っている」「大丈夫」「これが当たり前なんだ」って自分に言い聞かせながら。

いずれ、10年前に配られて大切に読んでいたルールブックは使えなくなる。
きっとあと10年もすれば、一つの会社にずっと勤めて頑張っている人たちが「間違ってる」と見られる世の中がやってくる。

今度は「ずっとこの会社で頑張ります!!」がルール違反になるんだ。

こうやって、ルールブックは更新され続け、新しいルールブックに従えない人はまるで生きていく資格がなくて、不成立な人生を送っているという烙印を押されてしまう。


……そんなことを考えているうちに、いつの間にか新しいルールブックが配られていた。
そこには「やりたいことをやらなければいけない」と書いてあった。


そんなことをぐるぐる考えて、やっと気がついた。そうだ、ずっと疑問だったんだ。
みんな同じルールブックを持って、生き辛そうにしているのが。

なんどもなんども読み返されたルールブックはボロボロになる。でも本当にボロボロになっているのは自分なんだよ。
ルールブックは新しいものが配られるけど、ボロボロになった自分はもう元には戻らないんだよ。

そんな生き方、もうやめたいんだ。
手を使うサッカーがあってもいいじゃないか!
足を使う野球があってもいいじゃないか!!
服を着たままする相撲があってもいいじゃないか!!!

いつか誰かから配られたルールブックを捨てる必要はないけれど、そのルールブックにどんどん自分なりのルールを書き加えてしまえばいいんだ。
書き加えていくうちに、誰が書いたかわからない最初の方のページを見ることはなくなるから。

みんなが自分なりのルールブックを持つことができたらなんていいだろう!
それぞれのルールブックを見せ合って、「いいね」って。「面白いね」って。そうやって言い合える世の中になればなんていいだろう!
一つの会社で働く人がいてもいい。転職を何度繰り返す人がいてもいい。1年間海外で暮らすわたしがいてもいいんだ!

こんなことを書いていて、今日のわたしも間違っていたな。と反省した。
今度からはこんな風に言えればいいな。

「今日から手も足も使ってサッカーをします!! みんなはどう!?」って。
<<終わり>>

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