見出し画像

King Gnuと「100日後に死ぬワニ」から考える、終わりに向かう物語を共有すること

私が敬愛するバンドKing Gnuの3rdアルバム「Ceremony」が発売された。フラゲ日、仕事をさぼって車の中で1周、息をのんで聴き、家に帰ってからまた一通り聴いた。素晴らしいものだった。

今日記しておきたいのは、ヌーがいかに音楽的に優れているということではない。(言わずもがなであるし、そちらの方面に関してもちろん全くの素人だ)バンドの首謀者、常田さんのプロデュース力についてだ。

ROCKIN'ON JAPAN2月号では、アルバムの発売記念で彼らにロングインタビューを敢行している。その中での常田さんの発言に、私は何かびびっとくるものがあった。掘り下げていき、「物語をリアルタイムで共有すること」の効果について考えた。

・キングヌーのコンセプトとして、群れを成す動物であるヌーのように、バンドの「群れ」をどんどん大きくして高み=売れることを目指す。

・そのために、ジャズやクラシックなど音楽的素養を高次元で持ち合わせたメンバーが集まり、あえてJPOPに殴り込む。

・2ndアルバム「Sympa」で文字通りシンパ(支持者)を募り、2019年の大ブレイクを「Ceremony」で祝う。

こんなことを話していた。なるほど、分かりやすいバンドのストーリーが組み立てられている。さらに気になるのは、SNSでファンの間でまことしやかにささやかれている、「常田さんは5枚目のアルバムを出して、バンドを解散させるらしい」という言説だ。本当にそんなことを言ったのだろうか?ネットで調べると、それらしい記事に当たった。


以下引用。

常田:……まぁ、これからアルバムはたくさん作っていくので。とりあえず、5枚目までは作りたいなと思っているんです。5枚目に『King Gnu』っていうタイトルのアルバムを作って、それで完結させます。
—もう終わりが見えているんですか?
勢喜(Dr,Sampler):「5枚目くらいで終わりにする」って、(常田)大希はよく言っているよね? ダサくなる前に終わらせるっていう。
常田:うん。終わりがないと美しくないので。「どうやって終わらせるか?」も、バンドの美学じゃないですか。極限までデカくして終わらせたいなって思います。最後にどんなディストピアが広がっているのか、楽しみです。

なんと……!!やはり解散の時期について言及していた。期間限定のユニット、プロジェクトというように銘打ったものでなく、突如現れた新星バンドが、「どうやって終わらせるか」についてデビュー時にメディアで言及している例は見たことがない。(この後、常田さんは半分冗談という風に話しているが)「もしかしたら本気で終わらせるのでは」と考えているファンは、SNSのファンを見ていると、少なからずいるのではないだろうか。

私は、常田さんがあえてこの発言をしたのではないかとにらんでいる。バンドストーリーの中に、「終わり」を暗に示すことによって、1つの物語としての機能が生まれる、気がする。時代の先頭を走るようなバンドが生まれて、あっという間に消える。そのときにリアルタイムで目撃した人は「あれは伝説だった」と語り継ぐ――そんな構図を意図的に生み出しているのではないだろうか。

話しは変わり、最近、4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」がツイッターで爆発的に拡散し、話題をさらっている。ワニと、ワニを取り巻く動物たちのほのぼのストーリーだが、普通じゃないのは、枠外の余白に「死まであと●日」と書かれ、日付が進んでいくこと。1日に1投稿されるので、リアルタイムでの100日後にワニは死ぬことになる。ワニへの哀愁のほか、「この物語を見終わるまでに自分が生きているか分からない」といったメタ的感想を抱くひとも少なくないようである。

さて、このワニの物語を引き合いに出したのは、キングヌーの物語との共通点を発見したからだ。

・物語の始まりから終わりが示されている

・アーティストや作品側が、受け手にリアルタイムで共有することを求めている

この2つだ。なんせ、「100日後に死ぬワニ」は投稿されている今見るから面白い。話題に乗り遅れまいと人々の群れができ、結果的にバズっているのではないか。全て完結してから一気読みしても、あまり楽しめないのは、想像に難くないだろう。(SNSという、今そのときを共有するメディアでの表現方法として素晴らしい)

キングヌーでは、シンパを集めている「今」、セレモニーをしている「今」というバンドの状態がアルバムのタイトルに現れている。ファンは大きな船に乗り込んだ船員となり、5枚目のアルバムという終わりに向かって進んでいくというイメージだ。本当に解散するかは分からないが、船員としてバンドの経験をそのときに共有できる意味は大きい。どのタイミングでファンになるか、作品に触れるかで、聴き方も変わるだろうし、バンドを応援する熱量も変わるのではと思う。だからこそ、いま聴かないと!と書き手をかきたてる何かが生まれるのではないか。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?