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この本の「敏感すぎる」ってどういうことだろう?【クラウス・ベルンハルト『敏感すぎるあなたへ 緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』CCCメディアハウス】

この本はドイツの臨床心理士が書いたものである。

斬新なのは、緊張や不安を自分でコントロールして対処する方法を、脳科学的に解説している点にある。たとえばポジティブな行動や望む未来を極限まで具現化して、それを映像として脳内再生することでポジティブな脳の回路を作ることを事細かく説明されている。

確かに、水泳選手のマイケル・フェルプスはオリンピックの金メダルに向けて、常に頭の中で金メダルを獲得して拳を突き上げるその瞬間までをハッキリ脳内で映像化してイメージトレーニングしていたというのだから、この方法は理にかなっている。繰り返し何日もかけてやるトレーニングではあるが、思ったより手軽にできるテクニックだと思う。

さて、この書評で考えたいのは、本のタイトルに含まれる「敏感」という2文字の意味である。

いま、「敏感すぎる」なんて5文字が含まれたタイトルの書籍といえば、あらかたはHSP(Highly Sensitive Person:過度に敏感な特性を持つ人)向けであったり、繊細や過敏な性格の人向けにいかに生きやすいやり方を考えていくのか、みたいな、そういった本が多い。

ところがこの本はその「HSP」の「エ」の字も出てこないどころか、本文中に「敏感」という漢字2文字すらたいして見かけないのだ。当然のことながら、たとえば騒音が苦手な聴覚過敏だとか強い光がダメな視覚過敏と言った話は出てこない。

これはいったいどういうことなのだろうか。僕はこの本を「敏感すぎる」という5文字を見て買うのを即決したので、正直な話読後得た最初の感想は「思ってたのと違った」というものだった。たぶんこの著者は「HSP」という存在をまったく知らないか、知っていたとしても岡田尊司『過敏で傷つきやすい人たち』に触れられていたようにまったく相手にしていないのかもしれない。そこまで思った。

では改めて、この本の言う「敏感」というのはどういうことなのだろうか。

何を書いても憶測にしかならないが、おそらく翻訳者としては「(不安や緊張に対して)敏感」という意味での「敏感」なのだろう。前述したが、この本には騒音や強い光が苦手だ、という話は出てこない。しかしながら、もっと広い意味で「不安」「緊張」ということに対して非常に繊細に感じ取り、プレッシャーにいつも根負けしてしまう敏感な人もいる。

であれば、この「敏感すぎるあなたへ」というタイトルはあながち間違ってはないと思う。逆に言えばこれ以外の意味で翻訳するときに「敏感」という2文字を当てたのなら、訳者はぜひその言葉の真意を説明してほしい、と感じる。


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