梅雨のバス

雨は嫌いだ

バイト先に向かうバスの座席から雨の車窓越しに霞む電光掲示板を眺める

ちょうど5年前のあの日も今日みたいに小雨が続く日だった気がする

田舎育ちで通学に1時間半かけていた高校生活、テスト期間は電車の本数が少ないため電車の乗り換えをせず途中からバスを使うことが多かった

いつものようにバスの中には運転手と自分だけ

終点までいつもは単語帳を開くか、寝てバスの到着を待つかだった

その日はテスト最終日だったこともあり疲れていたのか一度も目覚めずに終点まで到着していた

終点についても起きない自分を運転手のおじさんが起こしてくれた

白髪まじりの優しい顔をしたお爺さんだった

右手には缶コーヒーを握っていた

「これ、飲みなさい」

と言って、暖かい缶コーヒーを手渡してくれた

そして優しく微笑む運転手、それ以上の言葉は言わずに運転席に戻っていった

その時のなんとも言えない心が温まる感覚を今でも覚えている

自ら選んだ学校ではあったが通学時間の長さと、部活の辛さ、勉強の大変さに嫌気がさしていた自分に対して

君の頑張りはわたしがみているよ

そう言ってくれているような気がした

努力とか、頑張る姿は、自分だけが知っていればいいって

そう思っていた

今も、そう思っている

でも自分の存在を、自分の頑張る姿を認めてくれている気がしてなんとも言えない気持ちになった 

嬉しかった

そんなことをふと思い出す

どこかであなたのことを見てくれている人がいるはずだよ

決してひとりじゃない

やっぱりちょっとだけ雨の日も悪くない






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