フットボール・ハイプビーストの誕生
Text by Luke Taylor (The Culture Division)
Translation by Claude Honda
*この記事はThe Culture Divisionの記事を翻訳したものです。
For English reader, you can read this article on The Culture Division.
フットボール・ハイプビースト。私はこの言葉を打ち出したいと思う。この名詞はフットボールとストリートウェアという二つのサブカルチャーの融合と、二つがどのように相互に関連し、そして類似した特性を共有しているかを説明するためのものだ。その特徴の一つが「ハイプビースト」(最新の流行を追い求め、他人によく見せるために格好をつけている人のこと)である。
ハイプビーストの典型的な定義は、「ハイプ」を追う人のことだ。彼らはその時に「ハイプ」なアイテムだけを好む。例えばSupreme、トラビス・スコット、Off-Whiteやヴァージル・アブロー。このシーンでは非常に多くの金が動き、多くの人気アイテムの価格は3桁または4桁、場合によっては5桁にまでのぼる(ドル換算)。これは今やストリートウェアのカルチャーの一部である。とてつもない勢いがあり、この需要を利用して人々は非常に高い利益を上げている。
友人からトラビス・スコット×ジョーダンのトレーナーを購入するためのラッフルに登録した時の話を聞いたことがある。彼は見事に当選し、小売価格でトレーナーを購入して店を出ると、TMZがスキャンダラスな有名人に突撃する時のように押し掛けられ、高額な金額をオファーされたという。その場で、現金で。この現象に私は興味がある。これらのアイテムは確かに良いものもあるが、その作品がもし「ハイプ」されていなかった場合、果たして人々はそのような金額をオファーするだろうか。おそらくしないと私は思う。彼らは自身のサークルの中で受け入れられたいという理由でアイテムを購入しているのか、それとも実際にそのアイテムが好きであるという理由で購入しているのか。おそらくそのどちらもだろう。
フットボールにおいても同じような現象が起きている。ハイプや巨大な需要によりシャツの価格が急上昇するなど、このような特徴が強く特徴が現れてきている。
ここでは統計データは必要ない。この事実は非常に明白だからだ。フットボールシャツの需要は、ここ数年で急上昇している。私は個人的にもこれを目撃している。私がGear for In Bed With Maradonaに焦点を当て、The Culture Divisionの設立や個人的なシャツのコレクションを通じて文化に浸っていた頃から比べて、その需要の急増、つまりシャツやその他のギアの価格の大幅な上昇は明らかなのだ。しかし人々は「ハイプ」を購入しているのか、それとも個人的な意義や美学のためにそれを購入しているのか。
2018年ロシアW杯のフットボールシャツの人気が急上昇する前に、私は1994/95シーズンのイングランドのシャツを買おうとしていた。価格は約30ポンドだったが、私はそれを手に入れられず、結局私にとって大切だと思った別のキットを選んだ。最近ふと気になって、再びこれらのシャツが市場に出ているかどうかを確認したところ、価格が約70ポンドから100ポンドに上昇していることがわかった。最近では90年代のナイジェリアのキットが200ポンドを超えた価格で売られており、ヴィンテージのPSGのシャツはファッション界から非常に大きな需要がある。これは、フットボールにおけるハイプビーストカルチャーの出現の確かな証拠である。
私にとって、フットボールシャツは物語を語るものだ。それはデザイン、それを着ていた選手、記憶に残る素晴らしいシーン、またはあなたがそれを着ていたということだけでもいい。お父さんと一緒に裏庭でボールを蹴っていた思い出かもしれない。私たちがフットボールシャツに対して持つこれらの感情的なつながりは、フットボールカルチャーにとってとても重要だと私は思う。私はニューカッスルのファンなので、ニューカッスルのシャツに関わるストーリーや思い出がたくさんある。例えば、父が私に買ってくれた最初のキットを覚えている。1999/2000年のホームシャツで、アイコニックなニューカッスルブラウンエールのスポンサーシップの最後の年のものだった。私はこのキットが大好きだ。私にとって最初のシャツであり、それを着てフットボールをしたり、父と一緒にセント・ジェームズ・パークに行ったりした。
過去一年で、純粋な美的理由のためにキットを収集する人が急増した。当然これ自体は問題ない。多くの人が美学に基づいてキットを買う。しかしこれにより、純粋に好きなキットを集めるフットボールファンと、影響力やお金を獲得するためにこの流れに飛び乗る人々との間の、非常に細いラインにスポットライトが当たる。例として、2018年のヴァージル・アブローのナイキコレクションがあげられる。
2018年のワールドカップへのヴァージル・アブローとOff-Whiteの関わりは、フットボールにおけるハイプビーストカルチャーの出現の重要な兆候だ。私は以前、個人的なブログでフットボールそのものには興味のない、利益のために甘い蜜だけを吸おうとするアブローのような人々による、長い間ファンにより紡がれてきた文化の盗用について書いた。Off-Whiteとナイキの契約により売り出されたアイテムは数分で売り切れ、高価格で転売され続けている。どうしてなのか?それは「Off-White」だったからである。そしてフットボールアイテムにおけるこの現象は、その後シャツとNike Mercurial Vaporsがとてつもないスピードで売り切れ、オンラインでより高い価格で転売されたことで、既に一般的になったことがわかった。
この現象が大きくなるにつれて、心理的にも経済的にも投資する人は増え続け、さらに一部の人々がそれを利用しようと現れる。珍しいレトロなフットボールシャツは、そのハイプが指数関数的に増加したことにより、現在価格が高騰している。ドレイクやジョナ・ヒルなどの有名人がそれらのシャツを着ることで、ハイプはさらに助長される。そして、これらの有名人がフットボールギアを身に着ける(またはそれをデザインする)につれて、バージルがしたように、より多くの人々がそのカルチャーに投資するようになる。今、私たちはこのフットボールカルチャーのハイプビースト化における最初の段階にあるが、シーンの正当性には大きな疑問が残る。
しかし、フットボールファンのコレクターとハイプビーストとの間には微妙な境界線があるように感じる。ファンは変わらずフットボールに身を捧げ、珍しいシャツを買ってはそのコレクションに追加していくが、フットボールが音楽、ファッション、スケートなどの他のサブカルチャーに浸透するにつれて、ハイプカルチャーの特徴もフットボールに浸透していく。どういうことかというと、今はハイプビーストがフットボールにつま先を浸してどうなるか試している時期なのだ。我々は今ハイプビーストカルチャーとフットボールカルチャーが共有する性格の成長を目の当たりにしている。これはまだ初期の兆候だが、これがどこに向かうのか一体誰がわかるだろうか。願わくば、それが2度目のヴァージル・アブローによるワールドカップのプロジェクトではないことを祈りたい。それは確かだ。
最後に、私はあなたたち全員が考えるべき、ある質問を提起したい。あなたが次にフットボールシャツを買うときに考えて欲しい。あなたは美的にそのシャツを好むためにその金を払うのか、それともそれを取り巻くハイプに少しでも目がくらんでいるからか。
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