#186 あなたの船が沈むとき(鎌田航史/4年)
人生の夏休み。
日本では、大学4年間をこんなふうに例える。しかし、大学生活を終えようとしている現在、僕の人生に4年分の夏休みの形跡がない。バカンスを求めて海外逃亡したい。切実に。
いや、そんなことはどうでもいい。ここは僕個人のnoteではなく筑波大学蹴球部の部員ブログなのだ。
小言をだらだらと書き連ねるのではなく、もっと「蹴球部的な」文章を残さねば。
(僕が言うなって感じかもですが、「蹴球部的に」って言葉、本っ当に嫌いです。)
10月いっぱいで、15年間の選手生活に区切りをつけた。
正直、あまり実感はない。
サッカー選手という人生第1章が終了したと同時に、サッカー指導者としての第2章が幕を開けた。
結局最後までサッカーを選んでしまうところが自分らしくて笑える。まあサッカーは好きだし、指導も緊張感とやりがいがあるから、これでいい。
今振り返ると、こんなことばかりだった。
度重なる挫折、仲間との衝突。
プロを目指すことへの迷いや葛藤。
サッカー以外の道への誘い。
岐路に立たされるたびに、僕はサッカーがある方を選んできた。
たぶん僕は、この船から降りることはできない。
今も。そしてこの先の長い人生もずっと。
人生とは、航海のようなものだ。
船に乗り、海を越えた先にある新たな大陸を求める。
しかし、進んだ先に何があるのかは、辿り着いてみないと分からない。
もしかしたら、そこには何もないのかもしれない。
ときに、進むべき方角が分からなくなることもある。
それでも、軌道修正しながら進む。
目的地までは気が遠くなるほどの時間を要する。
新たな大陸が存在するのかは分からない。
進んでいる方角が正しいのかも分からない。
それでいて、乱暴に長い。
でも、進むしかない。
船内には、多くの船員たちがいる。同志たちだ。
同じ目標を持ち、海に出る。長い航海を共にする。
ところが、上手くいくことばかりではない。
船員たちにも、それぞれの航海がある。
方向性がずれていった船員たちは、寄港で船を降りてゆく。
別の船に乗り込んでいく。
一人になってしまったとしても、自分の船からは降りない。降りられない。
孤独は長く、憂鬱だ。
でも、進むしかない。
あなたにとってどれだけ魅力的な航海でも、離れていく仲間はいる。
別れは惜しいが、無理やり留まらせるわけにもいかない。
人には、それぞれの航海がある。
どの船に乗り、どの航路をたどり、どの大陸を目指すのかは個人の自由である。
そこに過度に干渉してはならない。
僕らくらいの年齢になると、幼い頃から当たり前のように乗っていた「サッカー」という名の船から、仲間がどんどん降りていく。
それでも自分は、同じ船に乗り続ける。
一体なぜ?
―――――――――――――
人は目標を決めたがる生き物だ。
何歳までにどうなりたいとか、
いくら稼ぎたいとか、
“プロサッカー選手になりたい”だとか。
目標を持つことは大切だ。
ただ、目標の解像度を上げすぎることを、僕は好まない。
ゴール設定の重要性は理解できる。
しかし基準を誤ると、それはただ自分を苦しめる凶器になる。
この世のほとんどのことは、自分ではコントロールできない領域にある。
そして多くの場合、人生は、コントロール不可の要素に大きく左右される。
特にサッカーなんてものは、自分ではどうにもならないことが多すぎる。
努力が実りづらいスポーツなのだ。
どれだけ内容が良い試合でも、セットプレー1本で勝敗が決することも多々ある。
天皇杯だと、プロクラブがアマチュアに負けるなんてこともある。
いくらビルドアップを練習したって、試合当日に大雪が降ってしまえば水の泡だ。
自分ではコントロールできないのだ。
身の回りのことに揺さぶられず、
目的地の不鮮明さにも心を折られず、
仲間とのすれ違いを受け入れ、
果てしない憂鬱の中でも芯を持って進むために、
「沈没船」を想像するところから、はじめよう。
あなたは、今沈んでも後悔しませんか?
他人をも巻き込んで、沈める覚悟がありますか?
その信念とともに沈んでいけますか?
僕は今この船が沈んでも、後悔しないだろう。
沈むなら、サッカーと一緒がいい。
それくらい、サッカーを心から愛している。
好きなことがある、というのは幸せなことだ。
逆に、好きなことさえあれば、それだけで幸せなのだ。
乗りたい船に乗れている時点で、もうあなたは幸せ者だ。
船を選ぶことができたのなら、あとは流れに身を任せてみよう。
無理に舵を取る必要はない。
目的地までは、波が自然と運んでくれるはずだから。
僕の人生の中で、この4年間は相当大きな意味を持つだろう。
大きな貢献ができたか
実績を残すことができたか
夢を与えることができたか
そんな贅沢な疑問は、持たないようにしよう。
ただ、
同期のみんな
先輩方、後輩たち
サポーターの皆様
そして、筑波大学蹴球部
僕と時間を共にしてくれたすべての人たちの航海に、
少しでも、僕のエッセンスが残っていれば嬉しい。
今シーズンの公式戦も、残すところあとインカレと新人戦のみとなった。
スローガン、「共頂」を掲げた今シーズン。
筑波大学蹴球部という船に、どれだけの人を乗せていけるか。
乗っていた人しか気づかないだろう。
それが、新大陸『日本一』行きの船だったということに。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
また、「蹴球部的な」文章を残してしまいました。お詫び申し上げます。
筑波大学蹴球部
体育専門学群4年
鎌田航史
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