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西荻ノススメ

東京にいるうちに西荻から引っ越してしまう日が来るなんて、思わなかった。
でもせっかくだから、住まなくなったからこそ書ける、西荻のnoteを書いていこう。箇条書きの感じで、私が大好きな西荻について書いてみようと思う。

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●ていねいに不動産
上京してとりあえず住んだ家と街が、どうしてもしっくりあわず体調を崩していた私。中央線散歩の限りを尽くし、西荻に決める。
そこから部屋選びだが、どうしてもちゃんと「ピンときた」ところに決めたかった。ネットで見ていてまず「ピンときた」ていねいに不動産に連絡をする。
Fさんは、ほんとうに淡々とした方だった。「善意」とか「思いやり」みたいな圧ある単語と無縁の、淡々と普通に、自分のすべき仕事をする方だった。
ほぼ毎週末2・3件ずつ、自転車で一緒に回ってくれた。あまりの決められなさに申し訳なく、ごめんなさい、早く決めないとですよねと言うと普通に「staさんは仕事の都合で急ぎとかじゃないんで、納得いくところにしたほうがいいですよ」と何度も同じトーンで言ってくれた。
「ピンときた」39軒目までの内見につきあってくれたこと、本当に感謝しかない。

●まわりのおうちと植物
小さくそれぞれの生活を楽しんでいる感じのおうちばかりで、見ていてとっても楽しい。かわいい小径がある家とか、そこだけ八ヶ岳っぽい家とか、植木にどんどん人間の住処を明け渡していってる家とか。
生えている植物とも、前の場所と違って水が合った。なんとなく受け入れられていて、気が楽だった。自分の中に木々の地図ができていて、駅前から自宅までは何通りも行き方があるので、今日はあの木にあおうかな、と歩く道を気分で決める。私は大きいまっすぐな道が苦手で、曲がり角がいっぱいある細い道がしっくりくることも、そうやって歩く中で気づいた。
ほんとうに、1番好きな木があって、その桜の木の前を通るから39軒目に決めたのかもしれない。その木の下で立ち止まってるのがよかった。枝の伸びた長さとか、このつぼみが明日には咲きそうだとかわかるくらい毎日見ていた。家までの帰り道、遠くからその木が立ってる姿を見ただけで、しんどかった日は泣けた。勝手に家族みたいに思っていた。

●ウレシカ
最初はMARUUさんの個展きっかけで引っ越す前に訪れた。ここで見せてもらった世界が、ほんとにいっぱいある。ダイさんカマタさんご夫婦に感謝しています。
https://note.com/shukran_taka/n/nc944531bc799

●FALL
毎週見すぎて自分の第2の部屋のつもり(勝手に)。何がどこに移動したとか、ついに売れちゃったんだなとかわかる(分からなくなっていくんだろうな、ちょっとさみしい)。
うちにつれてきた器とか、張り子とか、靴ベラとか、謎の生き物とか。そいつらはもともと自分がFALLにいたこと忘れてないだろう。

●夜の伏見通り
街燈のオレンジがきれいで、物語の中かな?と一瞬思う。ここをぼちぼち歩いて帰っているときから「もし西荻からどこかへ去ってもこの景色を思い出すだろう」と思っていた。そしてこの道を来訪者じゃなく住んでる者として歩けるのがちょっぴり誇らしかった。「なつかしい」が形になっている道。

●善福寺公園
何にもなくてただ広々と在る公園。公園だから当たり前だけど、空が広い。
以前近くに住んでいた井の頭公園と真逆の雰囲気で、私は完全に善福寺公園寄りの人間(?)。
不思議な夢を見たときとか、この人のことが好きだったんだと気づいたときとか、感情があふれるタイミングで、1人で散歩した(なぜかいつも深夜や早朝)。ひたすら歩いてきれいな空気を吸った。なんでも流してくれる場所。


●エイミーズベイクショップ
こってりしたおいしい焼き菓子たちが、雰囲気あるショーケースに並んで素敵なお姉さんたちの手で包まれる。夢みたいな場所。お店に入るだけで幸せな気持ちになる。手土産にしつこいくらい買っていた。
お店が移転する前から大好きで、はじめてブルーチーズ&フィグ&ソルトのマフィンを食べた日の衝撃は忘れられない。

●小高商店
めちゃくちゃ安い、とかじゃないけど、なんだかすごいエネルギーの塊みたいな野菜たちがいる。ぴかぴかしていて、持って帰っている袋からその気配が伝わってくるくらい。とにかく活気と旬がある。お店の様子を見てると「商売っていいな」と感じ入る。

●家
内見39軒目の家は、変なオートロック(外から呼び出せないので住人の電話番号知らないと入れない)で中庭があって、という本当に内向きの家だった。やさしくて素朴で、外の刺激を遮断して、私を1人でいさせてくれた。
今思うと、遅まきながらもらえた子ども部屋だったのだと思う。この家に来る前は「泊まりたい」という人を拒否できず、1人暮らしなはずなのに自分のペースとほど遠かった。引っ越してきてから、泊まりを断れるようになったり、コロナで静かになったり、十分に私の部屋で私のためだけに過ごすことができた。いっぱいかざりつけた。存分に遊んだ。はじめて私だけの城でいてくれた部屋。窓から見えてた百日紅にも、本当に感謝している。

***

西荻窪という街全体が、小さくやさしく作ってある気がする。普通に心がこもっていて、重くなく、刺激がやさしい。とにかくほっとしたかった私にとって、やっと休めた場所だった。
「いつか西荻を離れることがあれば、せつなく思い出すんだろうなあ」と思って見た景色がいくつもあるのだけれど、意外とそんな感じじゃない。ちょっとはせつないけれど、ただありがとうっていう気持ち。片思いではなくて両思いだったからなのかもしれない。
そういう街に住めたことも、これからも気軽に行けることも、すごくうれしく思っている。


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