『「本質直観」のすすめ。』

【マーケティング定番書籍】その12

『「本質直観」のすすめ。』

 著者:水越康介
 出版社:東洋経済新報社
 第1刷:2014年3月13日

「本質直観」のすすめ

1. 本書を読んだ背景

日本消費者行動研究学会の大学教員の先生方の中でも、1978年生まれの気鋭の"若手"。
著者の水越先生に対する私の個人的な印象です。
「マーケティング・リフレーミング」(認識の枠組み=フレームを変えることによる新しい価値の創出)という分野でのご活躍も印象的です。
2014年の発刊から間もない頃、マーケティング書籍の中でも異色なタイトルに興味を持ち、本書を手に取りました。

2. どんな人に向いているのか?

「本質直観」とは、現象学で有名な哲学者、フッサールによるターム(用語)なんですね。
著者は、あるときは禅問答のように"自らに対する問いかけ"(これも「本質直観」)をしつつ筆を進めており、まず、哲学や哲学用語に拒否反応を示すであろう皆さんにはお薦めできません。
そうですね。著者が本書の中で何度も触れられている、石井淳蔵先生、栗木契先生の著書を抵抗なく読める方には割と理解できるのではないかと思います。
「3. 本書のポイント」でも触れますが、本書はマーケティング(リサーチ)のスキルを学ぶのではなく、基本的な「スタンス」「フォーム」が解説された書籍であると私は考えます。

あ、そうですね。
著者が最終に近い第11章で、こんな内容の事例を述べています。

「教養が大事だ」
「大学の知識は現実にはほとんど役に立たない」

両意見は一見、矛盾するようですが、どちらとも正しいと著者は言います。
何となくでもいいんですけど、この「どちらとも正しい」ということが実感できる人には向いていると思います。

3. 本書のポイント

3-1.  著者は、哲学者の竹田青嗣・西研編の『はじめての哲学史』にインスパイアされたそうです(竹田青嗣は文芸・音楽評論家でもあり、80年代、ニューアカデミズムの文脈で『陽水の快楽ー井上陽水論』『ニューミュージックの美神たち Love songに聴く美の夢』を読んだ私にとって懐かしかった・・)。
「最初の直感を正しい形で疑えるようになれ、そのうえで、最初の直感から得た確信の正しさ(あるいはそれを疑う過程で生まれたまったく新たなアイデア)を本当の意味で深く確信しろ」(2ページより)ということだそうです。
データ至上主義的にさえ感じられる、昨今のビジネス現場を見つめ直す、まず自分自身がしっかりとものごとを考える。
データに振り回されず、かつ自己満足で終わりもしない。
そうして生産的なアイデアを作っていく具体的な方法、それが「本質直観」。

3-2.  私が感じた最大のポイント、それは、本書は「スキル」が身につけられる書籍ではなく、「センス」があるかないかを試される著作である、ということです(私がファンである、競争戦略とイノベーションを専門とされている楠木建氏の影響です)。
ありていに言えば、「向いているか?」「向いていないか?」という資質の問題です。
本書のカバーにこう記されています。

「普通の人が、平凡な環境で人と違う結果を出す」

著者と出版社さんには失礼ですが、これは無理な話じゃないか、、と私は考えます。

第11章で著者は、「本質直観」にとって大事だと思われることを以下のようにまとめられています(218ページ)。

(1) できるだけたくさんの知見に日常的に触れていること

(2) その知見を、なんとなくであれ自分の問題として考えていること(たぶんここがいちばん大事)

(3) ときに、切実な問題として深く考えていること

(4) 創造的瞬間は革新に違いないが、本質直観の中で、当初の確信が失われることもありうること

(5) 創造的瞬間が得られるかどうかは偶然に近いが、本質直観という方法は、しっかりと学べば誰でも体得できること

このうち最後の(5)について私は疑義を持っている、ということです。
他にも本書には、「ソーシャルメディアは自分を映し出す鏡かもしれない」「自分は相手が映り込む鏡かもしれない」ということも書かれていますが、私は16年前からそういう意識でソーシャルメディアを活用てきました。
私にとってSNSに書き込むことは、自分自身との対話であり、ときに「何かが降りてきて」自動筆記するような感覚を覚えてます(Blogを書いてたときには、よくそう感じました)。
もちろん、友人からのリアクションは大いに気になるものの、人様に何かを伝える、という目的は二の次なのです。
 
3-3.  では、本書を読んで私が感じた最大のポイント、「本質直観はスキルとして身につけられるものではなくって、向てるか? 向いてないか? という資質のあるなしの話じゃないですか?」という私の直感。
その「確信」の正しさを自らに問い続ける、なんで自分はそう感じたのか? どんな経験と知見?・・・
そういうのを「本質直観」というのでしょう(笑

4. 感想

本書でも僅かのページ数ながら、興味深い事例が記されてます。

・花王さんのマーケティング組織の歴史
・ハウス食品さんのシチュー開発・価値創造プロモーション(ZMETのデメリットを踏まえたモチベーション・リサーチとテキストマイニングの活用)
・パナソニックさんの「レッツノート」開発の歴史

特にパナソニックさんの「レッツノート」開発の歴史(セグメンテーション&ターゲティング)のエピソードは、個人的に面白かった。

以上です。

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水琴窟


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