『合理的なのに愚かな戦略』

【マーケティング定番書籍】その14

『合理的なのに愚かな戦略』

 著著:ルディー和子
 出版社:日本実業出版社
 第1刷:2014年11月1日

合理的なのに愚かな戦略

1. 本書を読んだ背景

昨年10月、『マーケティングは消費者に勝てるか?』を紹介いたしました。
その著者であるルディー和子氏の新著ということで、2014年、当たり前のように購入しました。

「『お客様は神様』だとしても、顧客の声がいつも天(神)の声だというわけではない。神様といっても死神様も貧乏神様もいる」(45ページより)

2. どんな人に向いているのか?

マーケター、リサーチャーである前に、なによりも、ご自身が生活者・消費者であることを忘れている方。
あるいは忘れてはいなくても、職業人としての自分と生活者・消費者である自分は別だよ、そうじゃなければ仕事にならないと思われている方。
そう思われている方に気づいていただく、いやぁ、難しいですかねぇ(笑
著者はごく当たり前のことを言われているんですけど、以下、引用しますね。

「企業人も、仕事から離れて純粋に購買者の立場に立ってショッピングをするときの自分自身を分析してみれば、直感とか勘、ひらめき、あるいは「ただなんとなく」というアバウトな感覚で購買決定していることがわかるはずだ。それでも、プライシング(価格づけ)することが仕事になると、調査結果とか購買データに基づく事実(実際には真実を伝えているわけではない事実)を分析して答えを見つけようとする。だが、そういった方法で見つけた適正価格は、消費者の購買時の感覚をとらえたものになっているのだろうか?」(59ページより)

3. 本書のポイント

3-1. 『マーケティングは消費者に勝てるか?』でもそうでしたが、ルディー和子氏は、人間の原初的な脳、ってものを重視しているんですね。
近代的・合理的存在としての人間ではありません。
ですから、芥川龍之介を死に至らしめたであろう「漠然とした不安」とか、そういったファジーな心理をもっと重視したほうがいいんじゃないかと思う私は、ルディー和子氏には共感するわけです。
本書でも2008年のリーマンショック以後、消費者の不安の原因を軽減するため、自動車購入者が失業してローンが払えなくなった場合、1年以内なら返品できるキャンペーンを展開、販売台数も増加しブランド力も高めた韓国の「現代自動車」の事例が紹介されています。
「暗い現実に正面から向かいながらの明るい希望を与えてくれるブランドだという感情的価値を得ることに成功した」(67ページより)
日本の企業でこんなことできるでしょうか?
はい、「暗い現実に正面から向かうことを意識的に避け」ながら「価格を下げる」ことぐらいしか能がない、、いやぁ、止めときましょ(笑

ひとつ言えること、それは、「不安」という深い購入障害要因は購入促進要因にもなりえる、ということでしょう。

3-2. 二つ目も「人間の原初的な脳」と根が同じ話です。
本書のタイトルの種明かしはシンプルです。
経営者だけじゃなく、自分自身にもあてはまることです。
「経営者も結局は人間なのだ。いくら合理的な戦略を立てても、それを実行するときに、人間の感情を抑えることができないのが人間だ。このように、経営が失敗するのは、戦略ミスとかではなく、自分では考えもしない自分自身の感情から生まれた言動が原因となることが多い」(213ページより)
 
3-3. 最近(2021年現在)、SDGsとかいいますよね。多様性とか。でも、そんなお題目を唱えてもそれだけじゃ上手くいくわけが、いやぁ、止めときましょ(笑
それ以前の今でも解決しない男女の役割の問題とか。
これも引用しちゃったほうが早いので引用します。
「革新的な新製品開発とかブランド創造という観点から見れば、人生の様々な体験を積んだ人間のほうが役に立つ。同じ職場の人間とつきあってばかりいる企業人よりも、子育て最中に子供の友達のパパ・ママや保育園の先生たちと親しくなったパパのほうが、よいアイデアがひらめく確率が高い」(127ページより)
私もそう思います。

4.  感想

本書でもラジカルな見解がてんこ盛りです。
英国の人類学者・進化生物学者であるロビン・ダンバーの学説、人間が自然な形でグループを形成するときの最適人数は100~150人で、それより規模が大きくなると組織の安定とまとまり維持のために、より多くの規則や規範などが必要となる、つまり、ストレスが多くなる学説を紹介しています。
この場ではこれ以上、踏み込みませんが、なかなか示唆のある知見です。

以上です。

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水琴窟


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