『マーケティング・リサーチの基本』

【マーケティング定番書籍】その13

『マーケティング・リサーチの基本』

 編著:岸川茂 著:JMRX
 出版社:日本実業出版社
 第1刷:2016年10月1日

マーケティング・リサーチの基本

1. 本書を読んだ背景

2011年からほぼ9年間、私がひとかたならぬ御縁をいただいているJMRX勉強会。
JMRXとは、「Japan Marketing Research eXcellence」の略です。
JMRX勉強会は、本書の編著者である岸川茂さん(株式会社MROCジャパン代表取締役)と、牛堂雅文さん(株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー)が共同で2010年4月に創設された日本初のマーケティング・リサーチャーのネットワーキング・グループです(本書のあとがきより)。
労働組合の形態と同様、米国では職業人のネットワークは産業別が中心ですが、日本での職業人のネットワークは伝統的に企業別です。
必然的に、企業の枠を超えた「マーケティング・リサーチャー」同士の連携は、業界団体や学会などがあるものの、決して強いとは言えませんよね。
ですから、プロフェッショナル同士の研鑽の場=JMRX勉強会は、“横のつながり”を重視する私といたしましては、有難いことこの上ないわけです。
そんなJMRXが、各分野のプロフェッショナルを動員して刊行されたのが本書です。

2.  どんな人に向いているのか?

マーケティング・リサーチの全体像を、抜け漏れなく俯瞰できます。
執筆者はコラムを含め総勢24名のプロフェッショナル。
いわゆる「集合知の結晶」(まえがきより)です。
編著の岸川さんが「まえがき」で書かれているように、初心者にとっては「入門書」、中堅・ベテランにとっては「復習書」「実践書」です。
ベテランといっても、全ての分野を網羅して実務を行っている方はほぼいらっしゃらないでしょうし、新しい(2016年現在)潮流などを把握しておくことは必要かと思います。

3.  本書のポイント

3-1. まず一言で言いますと、「既に著作を出されている方を含め、各々の専門分野で少なくとも一冊は著書を出されていてもおかしくはないような執筆者たちが、とても少ないページ数の本書で、サワーの搾り器で絞ったレモン汁のようなエッセンスを「ジワ~」っと吸収できます(一言にしては長いですかね・・)。

3-2. 「サワーの搾り器で絞ったレモン汁のようなエッセンス」。
(なんのこっちゃ?)と思われたでしょうか?
今、思いついた私自身も(なんのこっちゃ?)と思いました。
生のレモン、というとことがキモなんですが。
以下、気づいた点(ディテール)だけ列挙してみます。

・「推定と検定」では、サンプルサイズの大きさによる統計的検定の限界が触れられています。
・「定性調査」では、分析の手順が、見取り図の作成から森林の伐採、製材、建築プロセスのアナロジーでわかりやすく解説されており、さらには分析の抽象度(粒度)のご指摘も心優しき限りです。
・「アイデア開発」では、インサイトと単なるイメージの決定的な相違点が明らかにされています。
・「アイデア開発」ではさらに、「新奇事象」を手掛かりにするといっても、あくまでも「普通の人」の行動がポイントであり、エクストリーム・ユーザーの先鋭的な行動や考えではありませんよ! とこれも心優しき限り。
・「ビジュアル刺激法」の初歩的ながら重要な注意点として、最後までビジュアルを選んだ理由を聞いてはいけませんよ、とか(私は知りませんでした・・)。

3-3.  思い起こしてみると、大学の先生方の書かれた消費者行動論やマーケティング、ブランディング関連書籍では、複数の共著者による執筆は当たり前なんですが、実務書で本書ほど広い範囲を網羅した書籍は少ないのではないでしょうか?
それも24人!
どんなに優れた実務家やアカデミアの先生方でも、24人の「集合知」にはとてもじゃないですけど太刀打ちできません。

4.  感想

最終の「第6章 ニュー・マーケティング・リサーチ」で、行動経済学が取り上げられています。
お馴染み、ダニエル・カーネマン(2012)の「System1(ファスト思考)」と「System2(スロー思考)」 という二重システム。
消費者行動研究における定番である「精緻化見込みモデル」の「周辺ルート」「中心ルート」も、行動経済学のフレームではこういう解釈になるんだなぁ、と。
違ってたらゴメンナサイ・・。。

「第6章 ニュー・マーケティング・リサーチ」では、「マーケティング・リサーチ」の将来展望が記されています。
本書を読むまでもなく、将来、テクノロジー面ではAIによってだいぶ便利になるんじゃないかと考えてきました。
スマート家電も当たり前のようになれば、アスキングの比重も下がるとか。
現状のビッグデータとマーケティング・リサーチの文脈ですと、ビックデータは「行動」の結果なので、理由や因果関係はアスキングで、というのは間違ってはいません(データベース担当者とマーケター、リサーチャーの文化の壁は想像以上に大きいんですけどね・・)。
それでも、「行動」の結果からでもポンポン「仮説」が出てくるようじゃなければ、マーケターとして厳しいですよね・・。
だって、対象は人間なんですから。
それからですよね、リサーチでアスキングするのは。
で、話を戻しますと、本書にも書かれていますが「サイエンス」はAI、「アート」は人間という棲み分けは進むとは思います。
もっとも「アート」でもAIが想像以上に活躍してくれる可能性は大ですけれども。

最後になりますが、2020年のコロナ禍。
第三者的見方になるんですけど、元々、定性調査のプロの皆さんが、意識と前意識(フロイド)で必要性を感じてたオンライン(モバイル含む)ツール活用の必然性が、コロナ禍という“津波”によって一気に加速した、つまり“コロナ=黒船”なんじゃないかな? と推測したりしてしまいます。
不謹慎でしたらゴメンナサイ・・。。

以上です。

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水琴窟


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