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自社開発SaaSの商標登録をしたので、出願区分や取得の流れ、費用などをまとめました

嬉しいことに徐々に利用者が増えてきているモダンな日程調整ツール「Attendar」に関して、いちおう商標を取得することができたので、備忘録も兼ねてここにまとめます。(いちおうという意味は、取得までの流れのセクションで詳しく説明しています。)

出願・取得にかかる期間や費用については、あくまで今回自分が出願したときのもので、参考値程度にご理解ください。
また、自分は商標の専門家でも士業に携わっているものでもないので、情報の信憑性を100%保証するものではありません。

SaaS で必要となる商標の区分

結論から言うと、SaaS の場合で必要になる商標登録の区分は第42類です。
ただし、類似項目が含まれる第9類も取得しておくのが一般的で、セットで出願する場合が多いようです。

経済産業省 特許庁の公式サイトにある類似商品・役務審査基準のPDF内、商品・サービス国際分類表(第11-2021版)には、第42類が以下のように定義されています。

科学的及び技術的サービス並びにこれらに関する調査及び設計;
工業上の分析、工業上の調査及び工業デザインの考案サービス;
品質管理及び認証サービス;
コンピュータのハードウェア及びソフトウェアの設計及び開発

商品・サービス国際分類表(第11-2021版)

そして、続いて以下のように例が挙げられています。

この類には、特に、次のサービスを含む:
オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS)、コンピュータソフトウェアプラットフォームの提供(PaaS);

ということで、特許庁が SaaS サービスは第42類に含まれるということを明記してくれています。

続いて第9類についてですが、これには記録された及びダウンロード可能な記録媒体、コンピュータソフトウェア、コンピュータ及びコンピュータ周辺機器などが該当し、ダウンロード型のアプリケーション(スマートフォン用アプリケーションなど)、そしてVR用ヘッドセットやスマートウォッチなどのハードウェアが含まれます。
なのでブラウザベースのWebアプリケーション以外にもモバイルアプリも提供する場合や、例えばフィットネストラッカーとSaaSを組み合わせたサービスなどのケースでは、第42類以外にこの第9類が該当すると言えるでしょう。

これ以外にも、ビジネスモデルとして BtoB を考えており、システムの組み込みにおいてコンサルティングが発生する場合などは、第35類も関係してくるなど、ケースバイケースなので、提供するサービスのイメージがある程度できた段階で、専門家に相談することをおすすめします。

取得までの実際の流れ

ここは Attendar のケースの体験談です。

出願に至るまで

まず、商標についてはSaaS開発を本格的にはじめる少し前の段階で、知り合いの社労士の方からご紹介いただいた弁理士兼行政書士の方にメールでまず相談をしました。やりとりのメールをさかのぼるとそれが2020年2月中頃。

 SaaS(Webアプリケーション)の開発を予定していること、サービス名やロゴはほぼ決まっていることなど、ざっくりとした概要をこちらからお伝えしました。

弁理士さんからは、出願前の登録可能性に関する先行調査と、侵害可能性の調査があるという回答をいただきました。
その商標がそもそも出願できるものなのか、まず調査が必要、ということですね。

(この調査にかかる費用および出願手続きにかかる費用については後述します。)

さっそく調査をお願いしたところ、数日で回答をいただきました。

その内容は、区分数は第42類、第9類の2区分になること、そしてこの範囲で先行商標の有無を調べたところ、完全に同一の商標は登録されていないものの、懸念すべき先行商標がある、というものでした。
ただこれは第9類のみで、第42類に関しては懸念点はなしでした。不幸中の幸い、というやつです。

今回サービス名である「Attendar」(ローマ字)の先行調査をお願いしたのですが、イギリスのある会社が「ATTENDA」という商標を先に取っおり、これが問題になり得る、と(大文字小文字は類似判断の際にはほぼ影響しないようです)。末尾に R がついていないので同一ではないのですが、弁理士さんの回答では、

1文字違い(特に末尾)の商標同士は審査官が類似していると判断する場合がございます。
審決例をみましても、末尾の1文字違い同士の商標は類似すると判断されている例もあれば、非類似と判断されている例もございます。そのため、本件につきましても、一旦は拒絶されるおそれがございます。
拒絶された場合、意見書を審査官に提出してこちらの反論を主張することができます。これが認められれば、登録となります。
もし認められなかった場合は、その次の段階の審判を請求することができます。審判では審査段階とは別の判断が下される場合も多々ございます。
いずれにしましても、審査段階で反論する場合も審判を請求する場合も、その際には別途手数料が発生致しますので、予めご了承いただきたいと思います。

ということでした。

要は、末尾の1文字違いは類似として一旦登録拒絶される可能性が十分にあるよ。その場合反論を主張することができるよ。もしそれも認められなかった場合は審判を請求することができるよ。それでも最終結果はわからないけどとりあえず都度手数料がかかるよ。
ということです。

弁理士さんの実労働が発生するので手数料が都度かかるのは当然で全くもって理解できるのですが、個人的にはなぜ1文字違いの場合の判定のルール設定がなく、審査員次第なんだ、と思ってしまうのですが、まあそういう仕組みなので仕方ありません。

区分&項目決定 -> 出願手続き

その後も上記の懸念材料についてメールで可能性等きいてみたのですが、今回のケースは非常に微妙なラインで、担当する審査官によって判断が異なりそう、という弁理士さんの見解でした。

結局、登録できる可能性が著しく低いというわけではなく出願してみる価値はあると判断し、2区分両方での出願をお願いしました。

尚、実際は第42類などの区分の中にさらに「項目」があり、どの項目を権利範囲に含めるか、どの項目を除外するか、という細かな指定も必要になってくるようです。しかもそれら項目の定義を読んでもパッとイメージしにくいものが多く、今回弁理士さんに依頼してそこらへんも説明やアドバイスいただいたので助かりました。
事業に関連する可能性がある項目はできるだけ含めた方がいいと思いますが、今回の自分のケースのように先行商標があって拒絶リスクが上がりそうな場合は除外するなど、ケースバイケースの意思決定が必要になります。

区分や項目が決まれば出願手続き自体はとても速く、弁理士さんから出願手続き完了のメールをいただいたのが2月の後半でした。ちなみに一番最初にメールで相談してからここまでで約2週間。

商標審査の結果と対応

出願手続き完了から審査の結果が届くまでが、自分の想定よりはるかに時間がかかりました。

特許庁から審査結果が届いたと弁理士さんからメールをいただいたのが、2021年の3月上旬です。コロナで通常より処理状況が悪化したなどの背景があるのかも知れませんが、出願手続き完了から1年ちょっとかかったことになります。

で、肝心の結果はというと、

拒絶理由通知

でした。

懸念していた通り、先行商標「ATTENDA」に類似しているということで、一旦拒絶をくらってしまいました。

これについては意見書を提出して反論することができるということだったので、それをお願いしたのですが、この際、もし反論が認められなかった場合は合拒絶理由に該当していない第42類の項目も含めた今回の出願全体に対して拒絶査定が下されてしまうことになるので、第42類と第9類を分割出願をした方がいい、ということだったので、そのようにお願いしました。

なので、第42類については登録手続きを進め、第9類についてだけ反論する形で進めました。

この拒絶対象の第9類についての分割出願、そして原出願から第9類を削除し第42類について登録査定を先に取得するための補正手続きが完了したのが3月の下旬。

第42類について登録完了

拒絶理由に該当しなかった第42類については無事商標の登録が完了し、この知らせがきたのが4月の下旬だったので、補正手続き完了から約1ヶ月で登録完了になったことになります。

第9類について意見書提出 -> 結果通知

第9類については3月下旬に分割出願したおよそ2ヶ月後に初回と全く同じ拒絶理由通知が届きました。
(分割出願をしたので、プロセスとして同じ拒絶理由通知が再度届いて、これに対して意見書を提出する流れ。)

その後弁理士さんの方で意見書を作成いただき、特許庁に提出したのが9月の上旬。

そしてその審査結果が届いたのが約4ヶ月後の2022年1月上旬でした。

ただ、結果は残念ながらこれまでと変わらず「拒絶査定」でした。

ここからさらに拒絶査定不服審判という審判にて判定を争うことができるのですが、弁理士さん曰く今回は審判で認定を覆すのは難しいケースだろうということで、拒絶査定不服審判は行わないことにしました。

結果的に、今回商標権を取得できたのは第42類のみ、第9類に関しては先行商標に類似しているということで取得できませんでした。

残念ではありますし、片方だけということで幾らかのリスクは残りますが、自分の中では SaaS で重要となる第42類が取得できたので良しと思っています。

ちなみに↓が第42類の商標登録証です。なかなかカッコ良いです。

商標登録証

今回 Attendar の場合は最初の相談から1年10ヶ月くらいかかりましたが、もし一度も拒絶査定を受けず、問題なく登録となれば、たぶん1年ちょっとで商標取得ができるのだと思います。

(補足)文字だけ、ロゴあり、ロゴのみ

今回は「Attendar」という文字部分(標準文字)だけで商標権を出願したのですが、文字 + ロゴという一体の商標として出願もできるし、ロゴ部分だけ別で商標取得もできるみたいです。もちろんその場合は2倍の費用がかかりますが。

自分は最初 Attedar という文字とロゴのセットで商標取得を考えていたのですが、弁理士さん曰く「理想としては文字部分だけで取得するのが望ましい」ということだったのでその通りにしました。

調査 & 出願にかかる費用

今回依頼した大阪の弁理士・行政書士の方の場合の金額です。もしかしたら社労士の紹介ということで少し安くしてもらっているのかも知れません(通常料金かどうかは不明)。

まず、出願前の調査にかかる費用ですが、登録可能性の調査については、出願手続きを依頼する場合は無料。(登録可能性に問題があるなどで)出願手続きに進まなかった場合は、調査手数料として 16,500円(税込) がかかる、ということでした。

そして実際の出願手続きにかかる費用ですが、これは区分数によって異なりますが、SaaS では一般的な2区分の場合は、出願時 & 登録時それぞれ

出願時
印紙代: 3,400円 + 8,600円 x 2 = 20,600円
手数料: 33,000円
合計: 53,600円

登録時
印紙代: 28,200 x 2 = 56,400円
手数料(成功報酬): 33,000円
合計: 89,400円

で、合わせて 143,000円(税込)となります。
なのでざっくりと2区分で込み込み15万円程度、ということになります。

もちろんこれより安くできる商標取得系のWebサービスもあるかと思いますが、個人的には今回弁理士さんに依頼して色々相談できたので満足しています。

ちなみに今回は拒絶査定を受けて、意見書の提出や分割出願の流れとなったため、追加で以下の費用が発生しました。
(普通に問題なく取得できればこれらは不要です。)

意見書の提出にかかった費用
拒絶理由通知に対する、意見書の提出手数料: 55,000円(税込)

分割出願にかかった費用
出願手続き: 出願手数料 16,500円(税込み) + 印紙代 12,000円 = 28,500円
登録手続き: 登録手続き 16,500円(税込み) + 印紙代 28,200円(10年分) = 44,700円


終わりに

以上、SaaS で商標を取得するまでの流れや費用についてのまとめでした。

商標 = トレードマークは世界でも共通化されている部分が多い(?)ようなので、この日本で取得した商標をベースに例えばアメリカでも出願できるみたいです。
Attendar は英語でもサービス展開する(している)ので、米国での出願についても今後情報収集しながら前向き検討していきたいと思っています。

最後、完全に宣伝にはなりますが、モダンな日程調整ツール Attendar ↓ 便利なサービスなのでぜひ一度使ってみてください!