死闘ジュクゴニア_マガジン

第29話「花鳥風月の秘密」 #死闘ジュクゴニア

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前回

「……だがな。俺が練り上げ続けた『武』の力は。あんたを遥かに凌駕する!」

 ライは立ち上がり、構えた。その視界の端にちらりとハガネが、その瞳に輝く不屈の二字が映った。ライは笑った。

「ふふっ、やってみせろ。やれるものならなっ!」

 土壇場の直上。対峙するライとフウガ。二人の強大なるジュクゴ力(ちから)が不可視の衝突を繰り返し、目に見えぬ火花を散らしていく!

「おい、リンさんよぉ……」

 フウガはライから視線を外すことなく、背後で呆然としている麒麟児のリンに声をかけた。

「電光石火のライは俺が抑えるからさ……お前さんはミヤビ様の支援に回りな」

 リンははっと我に返ると「……承知っ!」大刀を掴み飛び出していった。その気配を感じ取りながら、フウガは独りごちた。

「ま、正直、邪魔なんで」

 一方、土壇場の前方! 拳を前に突き出し身構えるハガネ。その瞳には凛と輝く不屈の二字。そしてその視線の先には対峙するライとフウガ。

「ライさんっ!」

 その呼び掛けに応えるように、一瞬、ライが微笑んだかのように見えた。ハガネにとってはそれだけで十分だった。

(ライさん、わかりました)

 ハガネもまた静かに微笑み、そして己の覚悟に身を委ねた。その前方!

「ミヤビ様、お下がりください!」

 叫ぶ綺羅星のトゥインクがハガネへと迫る。その全身から無数の煌めく光球が浮かび上がり、ハガネの周囲を取り囲もうとしていた。……さらに!

「ミヤビ様っ! ここは我らにお任せをっ!」

 土壇場から跳躍し、ザンッ! ザンッ! ザンッ! 宙を駆けるように迫りくる麒麟児のリン! その全身からは超自然の炎が噴き出し、その表情は自信に満ち溢れていた。

「はっ! はっ! はぁっ!」

 血中アドレナリン濃度が高まっていく。リンは確信していた。リンは己の栄光を信じて疑わない。そうだ、今までだってそうだったのだ。若くして俊英と呼ばれ、精鋭ひしめくこのジュクゴニア帝国において、他の有象無象どもを圧倒してきたのだ。そしてついにはフシト陛下との謁見すら許された。さらにはエリート中のエリートたるミヤビによる抜擢。

 リンは己のうちから溢れかえるジュクゴ力(ちから)を感じていた。賊と対峙しているこの瞬間、その先に、栄達への道が確かに見えた!

「死ねっ!」

 ……だが!

お前たちは……邪魔だっ!

 リンが振り下ろした大刀。それをかわすようにしてハガネは跳躍した! 空中、猛烈な速度でその身を捩る! グゥオオオオブォンっ! ハガネの両肩から伸びた光の翼、それが旋風のように吹き荒れた!

「!? バカなっ!?」

 リンはその光景を信じることができなかった。己の右肘から先が、光の翼によって消し飛んでいく。同時にトゥインクの首が宙を舞い、その放った光球が煙のように消滅していく!

バカな……そんな……バカなぁ!?

 くっくっくっ……

 ミヤビは笑い、そして叫んだ。

愚かな連中よ。貴様らごときがっ! 貴様らごときが、ハガネに敵うわけがなかろうっ!

 その言葉と共に、天空に突如として夜の帳が落ちた。浮かび上がる巨大なる満月。辺りを満たす花の香り、そして流れる雅やかな楽の音。「う……? うわぁあああ!?」淡い燐光に包まれ、花びらとなって散っていくリン。

ははっ、はぁっはっはっはっはっ!!

 ミヤビの洪笑が響き渡る!

「ぐっ……本当に巻き込みやがった。ひでぇ上司もいたもんだ……」

 土壇場の上、苦笑するフウガ。しかしその体はまだ燐光には包まれてはいない。ライもまた同様である。フウガはじりじりと距離を詰めながらライに向けて言った。

「俺もあんたも、まだしばらくはこの力に……ミヤビ様の花鳥風月にも耐えることができるはずだ」

 ふっ……鼻で笑い、応えるライ。

「あぁ、そのようだな。つまりはより先にダメージを負った者が……文字通り花と散る
「ま、そういうこった」

 直後、ライの電光石火、フウガの疾風怒濤。二人の四字が力強い光を放った! 二人の姿が掻き消え、常人には捉えることのできぬ攻防が繰り広げられていく。その衝撃により、風がブォンブォンと波濤のように吹き荒れる!

 そして再び土壇場の前!

「ふっふっ。ハガネ……再びこうしてお前と相見えることができたこと、このミヤビ、嬉しく思うぞ」
「……御託はいい。俺はさっさとお前を叩きのめし……そして先へと進む!」
「はんっ。言ってくれる」

 ミヤビはその剣をハガネへと向けた。

「言っておく。このミヤビ、貴様を前にして、もはや一切の出し惜しみはせん。今から貴様に見せるのは我が花鳥風月、最大の秘密である!」
「なんだと?」

 ミヤビの顔面、そこに刻まれた花鳥風月の四字が煌めく。

「見るがいい! 我が花鳥風月が最強であることの証しをっ!!

 ブゥァァアアアアアアン!

 ミヤビの体が花びらの暴風と化しハガネの周囲を取り囲む。しかしそれだけではなかった!

「これはっ……!?」

 花びらが渦巻く中に朧なるミヤビの姿が浮かび上がる。そのミヤビの姿がまるで合わせ鏡に連続して映る無限の像のように、超自然の彼方へと向かって展開されていった。そして見よ! 渦巻く花弁が寄り集まり、虚空に文字を刻んでいく。燐光に包まれた花びらがジュクゴを刻み、それが麗しき光を放った! そのジュクゴ、それこそは……

 無 辺 際 !!

「そんな……これはっ……!」

 動揺するハガネを嘲笑うかのようにミヤビの声が木霊した。

「わかるか? わかるだろう、ハガネ! そうだ、これはあの男……ムサイの力だ。貴様を守り、散っていった男の力だ!」

「……っ!」

 ははははははははっ……響き渡るミヤビの高笑い。

「ハガネ! これこそが我が花鳥風月、最大の秘密! 我が花鳥風月によって花と散った者。そのジュクゴ力(ちから)は全て我が物となるのだ! 故に……」

 無限に連続するミヤビの像がハガネを取り囲んでいく!

「故に我が花鳥風月は最強である! たとえ相手がどのような存在であろうとも! 全ては我が美しき世界の糧となるのだ!」

 ハガネは歯を食いしばり、胸の奥から絞り出すように呻いた。

「そんなっ……ムサイさん……ムサイさんっ!」

ははははっ! 私は欲しいのだ、ハガネ。貴様の力が。貴様の不屈が! 私は欲しい。貴様が欲しい。たまらなく欲しいのだ、ハガネっ!!

 無限に連続するミヤビの像が、無限の攻撃をハガネへと繰り出した!

【第三十話「激闘!ハガネとミヤビ」に続く!】

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