死闘ジュクゴニア_マガジン

第39話「花鳥風月、散る」 #死闘ジュクゴニア

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前回

 その時、ハガネたちは見た! 舞い散る花びらが壁となり、すべての光線からハガネたちを護っていく様を!

 長虫から放たれた激しい光の奔流──それは致死殺人光の怒涛、死を呼ぶ絶望の煌めきである! ミヤビの花びらがドーム状にハガネたちを包みこみ、その怒涛の煌めきを押しとどめている。花びらの壁が生み出した翳りと漏れ出す光の禍々しい明滅の中でハガネは叫んでいた。

「ミヤビっ!」

 ミヤビにはわかっていた。ダカツの攻撃の恐ろしさが。そしてその攻撃によってもたらされる結末が。だからこそ──「私はっ!」

 やがて光の奔流が止まった。ハガネたちを覆っていた花びらが寄り集まり、ミヤビの体を形成していく。そして、「くっ……」ミヤビは膝から崩れ落ちた。

「ミヤビ……なぜ!」
「ハガネ……受けてはならんのだ……一撃でも……」

 ミヤビの体がぼろぼろと、花びらとなって崩れていく。

「ハンカール配下の四人……やつらは……全員が一撃即死の攻撃を放つ……だから……」

 崩れ落ちた花びらが、はらはらと風に乗って散っていった。

「一撃でも喰らえば、それで終わりなのだ……!」

うぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!

 フウガの叫びが轟いた。その雄叫びと共に右腕に刻まれた疾風怒濤が激しい光を放つ。フウガは憤怒の形相でダカツを睨み、そして指差した。

「てめぇは……生かして帰さねぇ!」
「はぁあぁ、くだらん!」

 ダカツが嘲り返した、その時!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 激しい振動、地鳴り、禍々しき光の明滅。そして──空気と大地とを震わせ、ジンヤが奇怪なる光の環を纏い……浮上を開始した! 巨大なジンヤの威容が浮き上がり、急速に高度をあげていく。「これは!?」ジンヤを目で追い、ライは上空を見上げた。

「はぁぁ……見るがいい! これこそがハンカール様の力だ!」

 そう言い放つダカツの体を蠢く無数の長虫たちが覆っていく。まるで剥き出しの筋繊維のように不気味に脈打つそれによって覆われた姿は、蛟竜毒蛇が誇る絶対防御の構えである!

「これよりジンヤは……偉大なる陛下の御威光を示すために……はぁあ、貴様らテロリストどものアジトを急襲し、血祭りにあげる……はぁぁぁ……愚かなる貴様らは気づいていないだろうが……貴様らのアジトが調布郊外に存在することなど、すでに特定済みなのだ……あぁあ、くだらん……」

「なにっ!?」

 ハガネの不屈がバチリと輝いた。その遥か上空、キィィィィィイインと切り裂く音をたて、ジンヤが凄まじい勢いで飛び去っていく。

(ゲンコ……! ゴンタ、ステラさん……!)

「はぁぁあ……これより貴様らのアジトは徹底的に破壊される……そしてそののち、ジンヤは多摩・町田・八王子、三都市の大殲滅戦を開始する……不浄なる叛逆者どもは地上から一掃され……もって永劫なるジュクゴニア帝国の世が真に始まるのだ……あぁぁ、素晴らしい……」

「……させるか」ハガネの不屈が輝く。
「させるものか!」

 そのハガネの目の前を、散りゆく花びらが舞っていった。ミヤビの体が崩壊していく。

「はぁぁ……ほざけ。お前たちも今からミヤビのようになるのだ……」

 ハガネたちを取り囲む巨大な長虫の口が開かれ、そこから再び殺人光の煌めきが漏れ始めた。それに対抗するようにハガネの不撓不屈の翼が拡がっていく。そしてその傍らではライの電光石火が稲妻のような輝きを放っていた。

「……おいおい」

 その二人の前に割って入るように立つフウガ。

「悪いがな……こいつは、俺が殺らねぇと気が済まねぇんだ」

「はぁぁ……」ダカツが呆れたように言った。「フウガか……知っているはずだが? 我が蛟竜毒蛇が誇る絶対防御、その前にはいかなる攻撃も通用しない……通用しないのだ……あぁ、くだらない……」

「はっ!」フウガは鼻で笑い、大胆不敵に言い返した。「それが、通用するんだな」すっと腰を落として構えた。「俺は達人なんでね」

 言うや否やフウガは跳躍した。疾風怒濤、超スピードの世界! その静止した世界の中でフウガは見た。

 稲妻のような閃光が迸り、巨大な長虫の頭部が次々と爆ぜていく。その閃光の中、跳躍する女の姿があった。ライの電光石火である! フウガの視線とライの視線とが交錯した。

「はっ。感謝する……とは言わねーぜ」

 高く高く跳躍したフウガはダカツの頭部直上まで到達すると、くるりと縦に回転し落下を始めた。肘を曲げ両の掌を胸の近くまで引き付ける。

「……絶招」

 その呟きとともに螺旋を描き、疾風怒濤の速度で回転させた掌底がダカツの頭頂に叩き込まれた!

 バァアアアーーン!!

 激しい衝撃とともにダカツを覆っていた長虫たち、それがまるで弾けたゴムのように吹き飛んでいく!

「はぁぁ……ぶべっ?」

 その瞬間、ダカツは自分の認識を越えるスピードで、自分の想定を超えた攻撃を受けたのだという事実に気がついた。そして眼前、弾丸のように迫り来るは不撓不屈の翼!

「うぉぉおおおお!!」 ザンッ! ハガネはダカツの体を切り裂いた──かに見えた。

「はぁぁあ、くだらんっ」
「なにっ」

 フウガは落下しながら身を翻し、上空を見た。そこにあったのは無傷のダカツである。

「はぁぁあ……知らんのか? 蛇は脱皮をするということを……」

 再びダカツの頭髪が蠢き、巨大な長虫を形成しようとしていた。

「ぁあ……んん?」

 だが──ダカツは訝しんだ。ダカツの周囲に舞い散る花びらが寄り集まり、ダカツを覆っていく。そして見た。地上。剣を向け、ダカツを見つめるミヤビの姿を。その姿は気高く、その表情は誇り高い。

「これが我が生涯、最後の一撃となるであろう」

 その言葉とともに舞い散る花びらが宙にジュクゴを刻んでいく。それこそは

 一 刀 両 断 !!

「……さらばだ」

 ミヤビの剣が弧を描き、そして

「はぁぁっく……くだらん」

 ダカツの体は縦に両断され、大地へと落ちていった。強大なる蛟竜毒蛇は滅んだ。

「ミヤビっ!」

 ミヤビに駆け寄るハガネ。ミヤビはジンヤが去っていった遠くの空を見つめていた。そこにはもはや、何も残されてはいない。

「ふっ……あのお方は……私のことなど、はなから眼中にはなかったのだな……」

 ミヤビはハガネを見た。その表情は静かに微笑んでいた。

「ハガネ……お前は美しい」

 ミヤビの体が、花となって散っていく。

【第四十話「永久凍土」に続く!】

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