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掌編とか短編とか!

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自作の掌編・短編小説を格納していきます。
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#逆噴射小説大賞2019

【ぼくときみの海辺の村の】 #第一回お肉仮面文芸祭

 ゴッゴッカン……  ゴッゴッカン……  ぼくの記憶はそんな音からはじまった。繰り返し打ちならされる音には不思議な静けさがあって、そしてぼくの口のなかには、いっぱいになにかがひろがっていて、ぼくはとにかく夢中でそれを食べていた。とてもおいしかったことだけはよく覚えている。  ぼくは食べる。ゴッゴッカン……。するとそれは少しずつ小さくなっていく。ゴッゴッカン……。ぼくは食べる。ゴッゴッカン……。それはかけらのようになっていく。ゴッゴッカン……。ぼくは食べる。ゴッゴッカン……

根源のヴィリャヴァーン

 わたしたちは誰もがヴィリャヴァーンの輝きから生じ、その根源の炎を胸に抱きながらこのエ・ルランの地へと落ちてきた。  だから、誰もが落ちてきた苦しみに囚われ続け、輝ける炎を胸に抱いていることすらも忘れて、その生命を終えていくのは悲しいことである。 「なればこそ。人の身のままヴィリャヴァーンに到ろうなどと望むことは、人としての分際を超えた行いでありましょう」 「それは許されざる行い。エ・ルランの地に災いと争乱とを招き入れることになりましょう」  壮麗なる列柱が輝く中、少

東京城、血煙り。

 五月雨、燻る霞色。  バタバタと編笠を打つ雨の音。  かさり。葉の上には雨蛙。  ナキリは微動だにせず潜んでいた。  藪の中、ただ独り。  その見つめる先。光州街道。西の備えである光府城から〈身魂府〉の政庁たる東京城へと到る道。  ケロリ。雨蛙が鳴き、そして跳ねた。跳ねて消えた雨霞の向こう。がちゃがちゃり。音を立てて進んで来たのは緋色鮮やかなる四つ足の駕籠。自律駆動のその駕籠には諸邦を監査する〈身魂府〉の巡見使が乗っている。その駕籠の傍ら、付き従うのは黒緑の戦外套を

東洋決死圏

 戦場を一陣の風が駆け抜けていく。  その風の名は沙也可(さやか)。  雑賀の沙也可。   (認めさせる。俺は速くて強い。里の誰よりも)  元服前。少年の面影を残す顔立ち。足軽鎧に身を包み、その手には奇妙な長筒。その長筒には刻まれていた──雷のごとき呪印、そして三本足の鴉。  その加速する視界は捉えていた。紀伊の山裾に蠢く軍勢、そして〈桐紋〉の旗印を! 「ははっ」  沙也可は笑った。あれこそは憎き羽柴の旗印。目指すべき敵! その前衛、足軽たちが禍々しき弓に矢をつがえて

黄金の華

 ふたつのダイスが転がっていく。盤の上、からんからと乾いた音を響かせて。  大太刀を携えた者。全身に呪紋を刻んだ者。六十口径ハンドガンを弄んでいる者。機械の体に油注す者。場末の酒場。異様な風体のならず者たち。  彼らの見つめる先。赤みがかった髪の男、そして黒髪の男。盤を挟んで対峙する二人の男。空気は淀んでいた。今にも炸裂しそうな危うさを孕みながら。ならず者たちのくすんだ眼差しが、どろりと二人の間、ダイス転がる盤上へと注がれている。 「出目は……」  火、そして龍!

慟哭の巨人ゼガン

「すまない……みんなっ……みんな……すまないっ……」  アルガの瞳から涙が溢れ、光となって散っていった。胸をえぐるような悲しみ。もう二度とは会えない人々──その人々の体が淡い光に包まれていく。その誰もが温かく微笑み、優しくアルガのことを見つめていた。 「頑張れよ、アルガ」 「いよいよじゃ。わしらも一緒に戦えるんじゃ!」 「ファイトだぜ、アルガにいちゃん!」  少女は祈るようにささやいた。 「さようなら……大好きなアルガ」 「ナナ……僕は……僕は……っ!」  人々の体