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誰かの幸せを願うとき、読み直したい一冊。『九つの、物語』(橋本紡/著)をオススメ!

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 私がこの物語に出会ったのは、10年前になります。
 まだ大学生だった頃、「こんなにも優しく、切ない話があるのか……」と驚きました。
 そして、いつか、本に関わる仕事に就いたら、この本を売ろうと心に誓っていたのです。
 まさに今、夢が叶いました。

 長らく会っていなかった“お兄ちゃん”が、大学生のゆきなのもとに帰ってきたところから、物語が始まります。
“お兄ちゃん”=禎文は、人当たりが良く人気者で、料理も上手。
 ゆきなにも美味しそうな手料理をふんだんに振る舞ってくれるのです。

 一冊の中に、たくさんの禎文料理が出てきて、それを食べながら絆を深めていく過程は、とても優しい時間です。
 どうして“お兄ちゃん”が戻ってきたのか、すべての答えが明らかにされたとき、兄が妹に向けた「おまえがおいしいと言うことばかり願ってたよ」の言葉が心に落ちてきます。

 さて、「九つの、物語」というからには、やはり、一冊に九つの短編が収録されています。
 それぞれのタイトルは以下の通り。

 第一話 縷紅新草    ※泉鏡花
 第二話 待つ      ※太宰治
 第三話 蒲団      ※田山花袋
 第四話 あぢさゐ    ※永井荷風
 第五話 ノラや     ※内田百閒
 第六話 山椒魚(改変前)※井伏鱒二
 第七話 山椒魚(改変後)※井伏鱒二
 第八話 わかれ道    ※樋口一葉
 第九話 コネティカットのひょこひょこおじさん ※サリンジャー

 美しい古典物語の題名を、それぞれそっと借りていました。
 一話一話の中に、各物語の文章を引用し、「禎文とゆきなが存在する今」と溶け合っているように読ませる世界観が本当に見事。
 古典好きの方は特に楽しめる本です。

 九話目のサリンジャーの題名は、『ナイン・ストーリーズ』に集められている一編。
 物語の流れに気づくと、温かな驚きに包み込まれました。

 最後に禎文式トマトスパゲティのレシピが載っています。
 レシピを読んだだけでこんなにも胸が温かくなり、涙で文字がにじむことは、ほかにはないでしょう。
 誰かの幸せを願うとき、読み直したい一冊です。(販売担当・まろ)

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作品について、詳しくはこちら→『九つの、物語』橋本紡

単行本刊行時の著者インタビューはこちら

作品制作・写真/金沢和寛

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