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文芸編集者の手紙道

「文芸編集者たるもの、きちんと直筆の手紙を書くように」

私、Hが編集者になったばかりの頃、
レジェンド的名物編集者Y氏(現在は退職。若者に混じって世界一周船旅を計画中)に、そう教えられました。

デジタルネイティブといわれるゆとり第一世代の私は
小学生の頃から携帯電話を持ち、
メール文化の発展とともに暮らしてきたので
手紙をしたためるという行為はとても新鮮に感じました。

それからというもの、作家さんへのお手紙、各関係者のお礼状など、
きちんと直筆で書き続けます。(たまにワードを使ってましたが・・・)

ある時、いつもと変わらず、作家さんへのお礼状を書いていたところ、
先輩編集S氏に「果たし状でも書いてるの?」と言われました。

S氏いわく、私が長年使っていた白無地の封筒とA4用紙のレターセットは
無味乾燥すぎるそう。

どうやら手紙道上級者の先輩たちは、便箋にまでこだわっているらしい。

「では、みなさんはどういうのを使っているんですか?」

と尋ねたところ、レターセットコレクションを見せてくれました。

季節別、花柄別、動物別など、作家さんや関係者の好みに合わせて
色とりどりの模様をあしらったレターセットを
引き出しいっぱいに揃えているではありませんか。

 スゲー。なんかかっこいい。

自称ファッションコンシャスの私は、センスを否定されたような気になり、
顔を真っ赤にして急いで鳩○堂へ。(要は派手で高けりゃいいんだろう、的発想)

先輩たちに負けない、お洒落でイカしてるレターセットを買い漁りました。

「ちょっと派手すぎない・・・?」というS氏の声なんて、どこ吹く風。

最新アイテムを手に入れ。なんだか文芸編集者として
手っ取り早くスキルアップした気になった私は、事あるごとに書き散らします。
それでももっと書きたくて、まだ出来上がってもいない担当作品の
見本本送付状まで書き出す始末。

その後、どんどんエスカレートし、
人生で一度も使ったことのないマスキングテープに手を出しました。

付箋一枚で済むような同僚へのメッセージまでも
ラブリぃな一筆箋とギラギラしたマステで盛りに盛りまくり。

もはや、ペンハラの域です。(ペンシル・ハラスメントの意)

次はカラフルなジェルペンとキラキラシールを買い揃えて、
さらにレベルアップさせようかと目論んでいたところ、ふと我に返りました。

 手紙は見た目じゃなくて、中身(文字の美しさ)のが大事じゃね?

“水”と”木”が同じに見えるといわれるほど、字が汚い私は
なによりもまず、人様に理解していただける字を書く必要があると気付いたのです。

なので、次は”美文字ドリル”たるものを買い漁ります。

ファッショナブルな人たちがいろいろな服に手を出すも、
最終形態が黒髪&全身黒服のシンプルコーデになるように(超偏見)、
この手紙道も極めていくと「白無地便箋 黒ペン 美文字」が
一番かっこいいのかもしれません。

では、また。

編集・H

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