メソポタミアのボート三人男 第一回/高野秀行
プロローグ トリアーナの舟
「俺たちはトリアーナやな」山田隊長が厳かな口調で言った。
「鳥と穴?」
空を飛ぶ鳥も久しからず、おごれる者も穴に落ちるという平家物語以来の諸行無常という意味だろうか。そのわりに私たちは高々と空を飛んでいた記憶はなく、いつも穴に落ちてばかりだったような気がするが。
「ちがうわ。トリはほれ、トリコロールのトリで、三つのことや。三つのアナってことだ」
穴が三つ? 人を呪えば穴二つとかいう諺を聞いたことがあるが、三つ?
「アナクロ、アナログ、アナーキ