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雌鶏/楡 周平

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昭和29年、ナイトクラブ「ニュー・サボイ」で働く貴美子は、上客の鬼頭から京都で占い師として生計を立てないかとスカウトを受ける。服役の過去を持つ貴美子は、そこを足掛かりに次々と成り…
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2024年1月の記事一覧

雌鶏 第五章 2/楡 周平

【前回】    3  応接室に入ってきた男の姿を見て、鴨上(かもうえ)はギョッとした。  暴漢に硫酸を浴びせられ、深手を負ったことは聞いていた。  しかし、その痕跡の生々しさは想像以上だ。  頭髪が抜け落ちた部分を隠すために鬘(かつら)を着用しているのだろうが、素材の質感や光沢が不自然で、違和感を覚えること甚だしい。右側の顔面に残るケロイド状に引き攣(つ)った皮膚。目にも損傷を受けたのか、濃いサングラスをかけており、それがまた外見の異様さに拍車をかける。 「お初にお目にか