シェア
. * 舟を砂地に引きあげ、手近な大木に舫ったとたんに限界がきた。 オシルシと高左衞門は転がった。 ボツボツボツと大粒の雨が頰を打つ。図に乗った高波の飛沫が雨粒に加勢する。軀のまわりの菩薩草が雨に打たれて、てんでんばらばらに踊っている。 「いかんな。ここで転がってると、海に引きこまれかねぬ」 波打ち際からはずいぶん離れている。高左衞門は慎重なのか、小心なのか。 オシルシはよけいなことは言わずに膝に手をついて起きあがり、菩薩草を踏みにじりながら高左衞門の背を
00 噫──。 高左衞門に気付かれぬよう溜息をついた。 妻の顔が泛ぶ。 子の顔が泛ぶ。 夏も盛りになってしまった。 櫂に海水が粘りつく。 漕いで漕いで漕いでいるうちに、無限や永遠までもが粘りついてくる。 いつまで、漕がされるのか。 気が遠くなる。 舟底に転がっている錆びた銛に視線を投げる。高左衞門の胸板に深々と銛が刺さるところを夢想する。 気を取りなおして漕ぐ。 ギシ、ギシ、ギシ、ギシ、ギシ、ギシ、舟縁が軋む。櫂がたわむ。 胸が軋んで