海路歴程 第六回<下>/花村萬月
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侍の名を知りません──と月静は笑う。実際は名乗ることさえ許さないのである。侍は月静に隷属していた。命じれば足の裏でも恭しく舐めるだろう。
一応はお勤めであるからと、月静は琉球が清との密貿易を疑われていることを聞得大君に報せた。聞得大君は王に薩摩からかけられている嫌疑を伝えた。
興味がないので諸々深く知ろうとしない月静であったが、どうやら薩摩の昆布を少しずつ着服して清にわたしていたらしい。小首をかしげて婆に問う。
「それで琉球が富むならば、よろこばしいこと