下町やぶさか診療所 5 第二章 居場所がない・前/池永陽
「大先生。次は元子さんなんですけど……どうしましょうか」
奥歯に物が挟まったようないい方を、八重子がした。
「どうしましょうかって――どうせまた、胸やけがするとか何とか、わけのわからんことをまくしたてるんだろうが、きている以上は診ないわけにはよ」
うんざりした思いで麟太郎はいう。
「それはいいんですけど。さっきちらっと待合室を見たんですが、何だか元子さん、怒っているようなかんじで、顔も険悪そのもののように見えましたから、それでちょっと」
困ったような顔の八重子に、
「険