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読書メモ:アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

本の概要

イギリス人のジャーナリストである著者が、アマゾンの倉庫とか、ウーバー(タクシー)のドライバーなどで実際に働いて、その労働環境の劣悪さを伝える本です。

感想

何でも通販で買えるアマゾンや、日本でもフードデリバリーで有名になってきているウーバーは、利用する側としては便利だが、働く側としてはどうなのか、というのは知っておきたいことの一つであり、読んでよかった。

「あなたが経営者、好きな時間に働ける」というエサをぶら下げ、有給休暇など、伝統的な労働者の権利として当然に与えられてきたものが与えられない労働環境で働かせることで成り立っているのが、ウーバーのようなギグ・エコノミーと称されるものなのだなというのは見知っていたものの、やはり詳細に読むと悲惨だなと思わざるを得ない。

ならば、そういった悲惨な労働を生み出すことを避けるため、正しい消費行動としてアマゾン、ウーバーの利用をやめるか、というと私はそうはならない。それは一見正しい行動に見えるけど、やめてどこに行けば倫理的な消費行動といえるだろうか。

アマゾンをやめて、楽天なら、ヨドバシならいいのか、それらがだめなら近所のスーパーならいいのか。そこにも不遇な労働環境で搾取される人がいるのではないか。そう考えると、個人としてできることは、自分の身内がそういったところの労働力となることを避けることくらいか、と思うが、我ながらなんて利己的な話だ、とも思う。正しい結論はわからない、存在しないんじゃないか。だから特に自分の行動は変えない。買い物しないわけにはいかない。近所の野菜無人販売所は、そんな世界とは無縁だし、とても新鮮な野菜が安いから行くが、なんでもそういう買い方ができるわけじゃない。

多くの場合、一見誰にも迷惑をかけていない消費行動であっても、世界規模で弱者の上に自分の普通の暮らしが立っているのだ、という感覚は持って生きるべきだという考えは強化された。普通の消費者であるだけで、無邪気に自分の行動は正しい、どこにも問題ない、だれにも迷惑をかけていないなんて言えない。きっと、これから100年後の常識に当てはめると現在のアマゾンやウーバーでの労働は、いまの我々がかつての奴隷について非人間的だといっているような扱いになるのだろう。

ところで、この本の中で、イギリスでのアマゾンの倉庫は、かつての炭鉱があった街に置かれているという話がある。そして炭鉱に勤めていた人たちは、そこでの人間味溢れる仕事を懐かしく、取り戻したいものだと考える一方で、アマゾンの倉庫での非人間的労働がクソみたいなものだと考えているという。

しかし、以下の記述を見ると、そのクソみたいなアマゾンの労働環境のほうが、かつての炭鉱労働よりはるかに素晴らしいのではないか。だって命の危険がなくなったのだから。

地下トンネルと縦坑での作業はいつも死と隣り合わせだった。アマゾンの倉庫での作業中、あるいはブラックプールの高齢者の家への訪問中に私が死ぬ確率は、スウォンジー・シティがサッカーのプレミアリーグで優勝する確率と同じくらい低いにちがいない。対象的に、炭鉱の地下作業現場ではしばしば人が亡くなった。
P211より
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世界的ベストセラーFACTFULLNESSにも書かれていたように、世界は良い方向に向かっていて、そう悲観するものでもないのだろう。そう思いたいものだ。






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