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正直に言うとコロナ鬱だ。

コロナが不安だ。シンプルに不安だ。これはただの個人的な、とても小さな感情だ。

みんなが一斉にリモートワークになりだしたあのとき、わたしの仕事はリモートワークにならなかった。東京を電車で通勤していた。緊急事態宣言が出てもだ。日に日にがらんとしていく電車に乗り続けていると、自分だけがどこかまずい場所に向かっているような、何か大きな流れに取り残されていくような気がした。

ぜんぶの窓が開いている電車はすごい風の音がする。換気が大事だと聞いたから、なるべく窓の近くに座る。マスクをしていないひとには近づかないようにする。そもそも座らないほうが、体の接触面積がすくないからいいんだろうか?でも、ドア横に立つのは感染しやすいと見たこともある。何がホントかわからない。吊り革は怖くて掴めない。毎日どこに居るべきか悩む。どれだけ考えないようにしていても、細菌のイメージが頭の中にちらつく。

もちろん、もっと危険な場所で働いているひとがいることだって知っている。ろくにマスクも用意できずに、医療現場で働いているひとたちに比べたら、こんなちょっと人のまばらな電車に乗ることくらい造作もないことかもしれない。でも、毎日ふつうに疲れる。心がすり減っていくのがわかる。

そんな戦々恐々として出勤したところで、ろくな仕事があるわけでもない。わたしの仕事はまったく「不要不急」なのだ。なんならどんぴしゃで自粛を要請されている業種だ。それでも出勤はしろという。売上とか給料の問題があるらしいが、せめてリモートワークにできないのか。と思っていたら、偉いひとは在宅勤務になった。したっぱにその権限はない。歩兵はしねってことか。個人情報の管理がうんたらとか言ってるけどな、みんなの安全より大事な情報ってなんなんだよ。

なまじ出勤しているものだから、家にいて暇らしき客からは、不安やら非難やらの電話がわんわんかかってくる。「うるせーな、こっちだって不安なんだよ!おまえはぬくぬく家にいられるだけありがたいと思えよ!」と言いたいのを押し殺して定型文を述べる。ええ、ええ、申し訳ございません。このたびはご迷惑をおかけして申し訳ございません。そうですよね。お客様もご心配ですよね。大丈夫です、なんとかしますから(なんとかしますってなんだ?)。営業再開のめどが立ちましたらすぐにご連絡します。今しばらくお待ちください。申し訳ございません。申し訳ございません。

申し訳ございません。

申し訳ございません。わたしもう不要不急の仕事のためにわざわざ電車に乗って出勤したくないです。家にいたいです。ステイホームしたいです。申し訳ございません。みんな文句言わず出勤してるのに申し訳ございません。誰もコロナで休職なんかしてないのに本気で休職(なんなら退職)を考えていて申し訳ございません。心が弱くて申し訳ございません。コロナ怖いです。死ぬのも怖いです。めちゃくちゃな世の中の空気と、めちゃくちゃな国の政策と、めちゃくちゃな会社の対応と、めちゃくちゃ言う客のせいでもう頭おかしくなりそう。

ずっと37度台の熱が出ている。初めに37.3度を示す体温計を見た時、ちょっとウケて、そのあとさーっと血の気が引いた。人間、わけがわからなくなるとちょっとウケるものなのだ。断っておくけど、ぜんぜんばかな外出はしていない。

なんとなく、それでも自分はかからないんじゃないかとどこかで思っていた。それが当事者になりかけた瞬間、今までに見たニュースが頭をよぎる。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。死ぬのか。痛くて苦しいのか。絶望的な気持ちになったし、もう二度と家から出たくないと思った。不安で眠れなかった。頭かち割れそうな頭痛とひどい吐き気と深夜まで戦うはめになった。

結論から言うとコロナじゃないと思う(たぶん)。幸いそこまで高熱は出なかった。咳も出なかった。味もわかった。匂いもわかった。今のところ体温も落ち着いている。ただ、コロナ鬱はめちゃくちゃ加速した。コロナ、まじでかかるじゃん(かかってないけど)。怖すぎる。このまま出勤を続けていたらコロナより鬱でやられそうだ。ほんとに家にいたい。

GWが明けたら普通に出勤できる自信がない。なんでみんな普通に出勤してるんだ。なんで誰も「家にいたいです」って言わないんだ。なんで誰も「緊急事態宣言が出ているうえに自粛要請されている業種なのに出勤を自粛しないのはおかしい」って言わないんだ。なんで誰もコロナ鬱になってないんだ。(ぜんぶうちの会社の話です。)なんでだ。わたしがおかしいのか。

遠慮なく咳払いをするオジサン。全身雨ガッパにフードをかぶってゴム手袋をして電車に乗っているひと。スーパーでおばさんに押しのけられて、何かと思ったらトイレットペーパーに手を伸ばしていた。マスクをずらして鼻を触った手でレジ打つ店員。コンビニの前でたむろしている学生は誰もマスクをしてない。アベノマスクは届く気配がない。毎日毎日そんなことばかりだ。わたしはたしかに心が弱いほうだと思うけど、こんなぴりぴりした空気の中に野ざらしにされて、おかしくならないほうが無理だよ。

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