#002 ChatGPTと戦いたくないなら中央値の戦場を避け、外れ値で戦おう

早朝、まだベッドの中で、寝てるでもない、かといって起きてるわけでもないという時間が大好きです。何より気持ちいいというのもあるのですが、この時間にいろんなアイデアを思いつくんですよね。なので寝るときはかならず愛用のメモ帳を枕元に置いております。

ということで、今朝、まどろみながら思いついたのが「ChatGPTは中央値しか返せない」ので「ChatGPTと戦いたくないなら中央値の戦場を避けろ、外れ値で戦え」ということです。中央値というのは統計でいう正規分布の両端から数えてちょうど真ん中のところという意味ですね。

みなさんも使ってみて感じると思うのですが、ChatGPTは漫画のドラえもんに出てくる出来杉くんのような、ちょっとつまらないぐらいに優等生的で真っ当な返答を言ってきますよね。あの「真っ当」感はどちらにも偏らない、両方の意見を取り入れるということで生み出されているわけですが、それがまさに「中央値」ということになります。

これはつまり、もし正規分布の真ん中にある情報を出力する仕事をやっているのだとすると、ChatGPTのような機械に仕事を奪われる可能性が高いということです。

ちょっとイメージしにくいかもしれませんが、例えば医療における診断、法律における違法か適法かの判断、会計上の判断などは、典型的に「中央値の答え」が求められる仕事ですね。

実際のところ、こういった仕事は現時点でかなり人工知能に侵食されています。例えば渉外弁護士事務所の最大手の一つである「長島・大野・常松」は2019年の段階で人工知能を法務処理に活用することを発表しています。

こちらの日経の記事によると「従来は弁護士が2週間かけて処理したM&Aの契約チェックを1時間以内で処理できる」とされています。「長島・大野・常松」といえば最難関で知られる弁護士事務所ですから、当然、優秀な弁護士を多数抱えているわけですが、その優秀な弁護士が2週間かけてやっていた仕事を1時間でやってしまうということで、これは恐るべき生産性です。

もう一つ、こちらは弁理士の独占業務であった特許書類の作成を人工知能に任せることについて、経済産業省が適法と認めたことを報じる日経の記事ですが、こちらは「2カ月以上かかっていた作業が最短1時間でできる」ということで、やはり桁外れの生産性ですね。

他にもたくさんあると思いますが、具体的には、入力された情報について「普通ならこれが答え」というのがある仕事は全て「中央値のアウトプット」が求められる仕事と考えて良いと思います。

僕が携わっている経営コンサルティングや組織コンサルティングもかなりの部分は「普通ならこれが答え」というものがあるので間違いなく影響を受けることになると思います。なかなか厳しい状況になるでしょうね。

こういった流れを後押しする要因もあります。例えば、人的資本開示の要請から、組織のデータが数値化されるということが今後世界的に進行することになります。数値化されてしまえば、その組織のどこに課題があり、通常であればどういうアプローチによって数値を改善できるかの診断が人工知能にもできるようになります。

世界中の組織のデータが開示されることになるわけですから、その数値を深層学習させた人工知能に経験と知識に頼る組織コンサルタントが本当に勝てるのか?というと非常に厳しい戦いになると思います。仮に勝てたとしてもアウトプットの価格は大幅に下がることになるでしょう。

これを逆側から指摘すれば、今後の人間に求められるのは「外れ値」ということになります。つまり正規分布の両側の端っこのことですね。別にこれは新しい話ではなく、これまでもずっと「外れ値」で戦ってきた人というのはいるわけです。

例えば音楽・アート・文学・建築・料理・ファッションといった領域で、突き抜けた存在になるためには「中央値のアウトプット」ではまったくダメで「外れ値のアウトプット」が求められる。

実はこれは僕の学部時代の研究テーマでもあります。例えば現在の世界において、モーツァルトやハイドンは典型的な古典派の作曲家とされており、彼らの交響曲の解説を読むと「典型的なソナタ形式に則って書かれており・・・」などという記述がたくさん出てきます。

しかし、その時代に流行していた他の作曲家の作品の構成とモーツァルトやハイドンの作品の構成を統計的に分析・比較してみると、実はモーツァルトやハイドンの作品はまったく典型、つまり「中央値」なのではなく、当時としては非常にユニーク、つまり「外れ値」なんですね。

僕は「正解のコモディティ化が起きる」と2019年に出した「ニュータイプの時代」で警鐘を鳴らしましたけど、その流れはますます加速することになりそうです。中央値に該当する「正解」に価値はない、その人ならではの「正解からの外れ方」が求められるということですね。

そうなると「正解を出せる人が偉い」という価値観を徹底的に植え付けることになっている現在の教育システム・受験システムを改変することが大きな課題になってきますが、ちょっと話が長くなるので今日はここまでにしておきたいと思います。

それではまた!

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