なぜ人生には「良質な失敗」が大事なのか?

皆さんは「学習」と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?

おそらく、多くの人は「なんらかのスキルや知識を、新たに獲得すること」といったイメージを持たれているのではないかと思います。しかし、経営学における組織行動論では、少し異なる角度から学習を定義します。すなわち、学習とは

経験を通じて自分の信条・習慣・思考様式を変化させることで、同じインプットに対して、より良いアウトプットを出せるようになること

と定義されます。

この定義には、多くの人が学習に対してイメージする「何かを加えること」というニュアンスが全く含まれていないことに注意してください。

学習というと、すぐに「何かを勉強すること、練習すること」といったイメージがつきまといますが、本来の学習というのは「自分というシステムが変容すること」であり、さらに踏み込んで指摘すれば、その変容によって「世界が違って見えるようになること」なのです。

つまり、学習というのは高度に「認知的システムの変容」という側面を持っているということで、禅でいう「悟り」に近いニュアンスがあるのです。

今日の人事の世界において学習に関するデファクトスタンダードとなっている理論「経験学習理論」を最初に唱えたのは米国の教育心理学者、デイヴィッド・コルブでした。

コルブは、自身による教育心理学領域の研究と、ジョン・デューイ、クルト・レヴィン、ジャン・ピアジェといった先行研究者の影響を盛り込みながら、1970年代から1980年代にかけて経験学習理論(Experiential Learning Theory, ELT)を発展させ、1984年に著書『Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development』を発表し、経験学習理論を体系的に紹介しました。

この著書において、あの有名な「経験学習サイクルの4ステップモデル」が初めて紹介されました。コルブによれば、私たちの学習は「具体的経験」を起点とする省察と抽象化のサイクルとして捉えることができます。

 
各ステップの定義については図中にある通りなのですが、ここで注意して欲しいのが、起点となる「具体的経験」は、私たちが通常の会話で用いる「経験」とは大きく異なるニュアンスを持っているという点です。

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