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異例の年、劇場達の謀反。Avignon OFF 2024

アヴィニヨン演劇祭OFF(以下OFF)も終盤に差し掛かりました。少しホッとしたところで、今回の僕のOFFの参加の仕方や、例年とは少し異なる2024年のOFFの特徴について、奥野衆英の視点からアヴィニヨン2024にまつわるエトセトラを、数回に分けて書き記しておこうと思います。

僕自身のアヴィニヨンOFFへの出展は、今回で5回目です。1回は共同で、それ以外の4回は自分のカンパニーでの参加です。日本からの参加を考えている方とは、またカンパニーの国籍が異なったり、ライセンスの違いもありますが、なんとなく雰囲気を感じていただけると嬉しいです。

史上初?劇場の謀反編

今年のOFFは異例中の異例で、一週間強制前倒しで行われています。なぜならオリンピックがあるからです。
「オリンピックと演劇祭ってお客さんの層が違うから別にいいんじゃない?」と思う方もいるでしょう。それはその通りです。が、実はオリンピックにはフランス中の警察官の大移動が伴います。アヴィニヨンも例外ではなく、オリンピック前には演劇祭が終わっていることを前提に企画されました。僕が参加している「OFF」は、国から支援を受けている方のアヴィニヨン演劇祭、通称「IN」の日程を追随する形で行われるので、いつもは同じ日程で行われています。いや、行われるはずでした。

つまり、これが今年起きている「特別な異変」です。
アヴィニヨンOFF実行委員会が、「アヴィニヨンOFFは、オリンピック前に終わらせる。しかし、会期を前倒しにはしない」と言い出したのです。例年通りの日程に始まり、パリオリンピック期間と被る最後の数日を切る形、つまり短縮日程で行うことに決定したのです。

これに猛反発したのが、アヴィニヨンにある約130のOFF劇場です。
オリンピック前に終わらせるための短縮日程にしたとはいえ、実質的には一週間も削減したわけではなく、通常のOFF期間である23日間(年によって±1日変動)から4日間ほど削っただけなので、19日日間は公演できます。これで十分だろう、と思う人もいるかもしれません。

では、なぜ各劇場が猛反発したのか

各劇場が猛反発した理由は、短縮されてしまったOFF日程の最初の4日間にあります。
正確には、今年のOFFのオーガナイズが始まった当初、下手をすれば7日間を減らす形だったところを、各所からの反対の声などもあり、上手く妥協案を出して、4日程減らす日程に落ち着いたのかもしれません。
が、とにかくOFFの劇場たちが怒りを露わにしたのは、一年に一度の最大の収益機会であるこの期間が、たとえ4日間でも突然消えてしまうからです。

もっと直接的に説明します。例えば、130ある劇場のうち100以上の劇場主が、OFFで収益を上げるために劇場(または一時的に劇場に改装したスペース)を所有し、その期間に一年分の収益を稼ぎ出します。僕の経験に基づく平均値では、4日間削られると、通常は1000万円を稼ぐ劇場が、日程の変更のために賃料を下げざるを得ず、800万円ほどの収益に落ち込み、200万円の損失が生じます。これは、IN部門の日程が前倒しされたにもかかわらずです。各劇場主は演劇祭の後にバカンスに出かけるため、200万円の損失は、その間の過ごし方や、次の年のOFFの経営に大きな影響を与えるでしょう。

今年の特異な点はこれだけでは終わりませんでした。
2024年のOFF参加136劇場のうち、いくつかの有力な劇場が反旗を翻しました。「私たちは、例年通りINの日程に合わせてスタートさせる!」と、アヴィニヨンOFF演劇祭を束ねるOFF事務局に従わないという異例の反乱を起こしたのです。そしてこれに追随した劇場が最終的に40になりました。
フランス国内外問わず、OFFに参加したいと望む演劇人たちは、OFFの事務局がこれを受けて、例年通りINと足並みをそろえた23日間の会期にするのか、あくまで19日間の短縮会期のままにするのか固唾を飲んで見守っていました。

が、結果は「OFF事務局動かず」でした。こうして、ここ数十年の歴史の中でもまず無かったであろう、フェスティバル公式プログラムとして告知される「IN」の日程と、劇場や各団体で発表する「OFF」の日程が、公然と異なる年が誕生しました。

本来であれば劇場は値段を少し下げるべきかもしれませんが、そこには「INがやっているではないか」という言い訳が成り立ちます。INがあれば演劇ファンはアヴィニヨンに集まっていますので、当たらずも遠からずです。参加各団体はやりたいと言えば、それは会場とする劇場の価格設定に同意したことになりますから、もう仕方のないことです。

そんなわけで、今年は

  1. OFF事務局が公式には告知してくれない4日間が生まれること

  2. 一週間の前倒しではないにしても3日程早く開始するため、お客さんの少ない時期での開催開始のハンデ(フランスの学校の夏休みが関係してくる)があること

  3. 告知してくれてもそれがそもそも例年でいうお客さんの少ない最初の一週間があるわけで、本格的にお客さんが増えるのは7月14日前後を待たねばならないこと

  4. 7月14日近辺で始まるお客さんの多い期間が例年二週間あるところが、一週間で終わってしまうこと

    以上を前提とする、異例の年になってしまったのです。
    OFFは、8か月くらい前から段取りが始まるプロジェクトですから、日程が変わったからといってなかなかやめることはできませんし、劇場によっては既に一定額を先払いで徴収していたりします。OFFに参加するということは、こういった日程と運との戦いでもあるのです。

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