Festival de théâtre et moi:フランスの演劇祭、演じたり観に行ったり。
奥野衆英は現在パリにいますが、通常夏はアヴィニヨン演劇祭に足を運んでいます。私は2004年、2008年、2009年、2012年に参加し、その他の年は通常1週間ほど観劇に訪れていました。
アヴィニヨン演劇祭といえば、アヴィニヨンの城壁に囲まれた旧市街を中心に、毎日1000公演近くが24日間連続で演じられる世界最大規模の演劇祭です。
この演劇祭に何度も参加している者として、観劇している者として、またこの9月は日本で豊岡演劇祭に参加する者として、アヴィニヨンの悲喜こもごもを書き記すべきことは山ほどありますが、今日は肌で感じた「観客の流れ編」と題して書こうと思います。
気力・体力・お金の力など、全てに余裕を持って挑んでいる団体などほぼいない序盤は、演劇祭の3週間の間に、観客のタイプがひな祭りの三色菱餅のように変わることを想像する余裕はありません。そしてもちろん、お客様はそれを気にする必要もありません。
しかしながら、演じる我々にとっては、これが意外にも厄介な問題です。観客層の変化は、ときには演出の根幹も揺るがしかねないほど大きいためです。作品の内容によっては、参加カンパニーの存続にまで影響を及ぼすこともあります。かつて日本から参加してきた、ある有名俳優を擁するカンパニーも、同様にこの試練に直面し、二週目には帰国せざるを得ない状況になったことがあるとか。
それでは、もったいぶらずに、その菱餅の三層の内実を紹介しましょう。
一週目、「フランスの本来の豊かな演劇文化を育ててきた温かな層」
菱餅の一層目は新芽を表す緑色です。一週間目に訪れるお客様は、まさに今世界に新たな作品を産み落とそうとしている劇団たちの、新たな一歩を祝福し、失敗も成功も全て楽しみにしている人々です。
この時期のお客様は、作品創りに共感し、積極的に関わってくれることが多いです。この感覚は日本ではあまり一般的ではないかもしれませんが、フランスの観客たちはその共感を率直な態度で示してくれるため、我々にとっても理解がしやすいです。時折、共同作業としての舞台を感じることもあります。このようなオーディエンスの中で、フェスティバルが幕を開けます。
二週目、「腕を組んで斜めに座り、一切表情を動かさない眼光鋭き層」
7月14日を過ぎたころから、日程を大まかに二週目と呼びます。この革命記念日を境に、フランスは狂気のグランドバカンスに突入します。二週目は別名「分かれ道」とも呼ばれ、参加カンパニーの半数は修羅場を迎えることになります。
小見出しにも書いた通り、ここで急激に増幅してくるのが、恐怖の無感情層です。 「あれ?あれ?おかしいな?確かこんな感じで良いと、一週間かけて掴んできたはず…」 という感覚に包まれながら、自信のどん底に突き落とされ、眠れぬ夜が続きます。
菱餅の二番目の層は、真っ白な雪を象徴しています。そう、この週のお客様は、40℃を超えるアヴィニヨンの中で、身も心も凍りつかせるほどの威力を持った雪のような人々です。
とは言い過ぎているかもしれませんが、この感覚が全く思い当たらないわけではありません。なぜなら、この時期には舞台に慣れた人々が「さて、アヴィニヨンでも観てみようか」と動き始め、さらには劇場関係者や文化センターの関係者など、プロとされる人々が国内外から集まり、仕事として厳しい目で舞台を鑑賞しているからです。
事情を知らずにいると、「突然観客の反応が鈍くなった…」とパニックに陥り、ネガティブな連鎖に巻き込まれる可能性があります。大切なのは、「観客の反応に関わらず、自信を持って素晴らしい作品だと言えるプロの意識を持つこと」を学ぶことです。
良くも悪くも、アヴィニヨンはそういう修行の場所でもあります。
そもそもここにたどり着くまで、作品づくりが上手くいっていなかったカンパニーというのも当然あります。そういったカンパニーが、この段落の最初に書いた「分かれ道」に差し掛かることになります。参加する苦労をよく知る身としては、書くことすら心が痛む二つの言葉「撤退」への分かれ道です。
単なる撤退だけならまだ良いです。
実際に「解散」するカンパニーすら出てきます。嘘ではなく、毎年確実に数十のカンパニーがここで成田離婚ならぬ「アヴィニヨン解散」をするのです。
意気揚々と希望を持って目指した聖地が、容赦なく厳しい現実を叩きつけられる場所となります。「みんながみんな、演劇を続けるための潤沢な資金があるわけではない」というのは、日本もフランスも一緒です。僕自身も、自分のカンパニーでアヴィニヨンに行った初年度は、幸いまだパリ第8大学に在籍していたこともあり、大学からの助成金を得るために、必死でプレゼン資料を作りました。
プログラムを見ると、「助成」の欄に、たくさんの団体が書き込んであるカンパニーもあります。しかし大抵はそれでは足りず、メンバー全員で参加費用を寄せ集めて、何キロも離れた場所に小さなアパートを借りて、灼熱の中でポスターを貼り、1000以上のカンパニーと市場を争うことは、まさに戦場でもあります。その中には当然、ストレスに耐え切れず、メンバー同士の言い争いに発展するカンパニーも出てくるし、続けるうちに赤字になるカンパニーも出てきます。劇場の控室で、地獄にいるような顔をしている他団体の演出家とすれ違うと、「せめてお客様、観ている間くらいは演者を盛り上げていただけないかなぁ~」と、心思ったりするのですが、それも含めて、育ててくれる場所なのでしょう。
三週目、「フェスティバルを締めくくる温かな文化層と地元の人々」
いよいよ菱餅の三層目、最上段に位置するのは、花を咲かせたことを表す桃色の層です。アヴィニヨンでよく見かける!という感じの、「観劇を愛する文化層の人々というのはこういう格好をする」というテオリーでもあるかのように、いい意味で分かりやすいおばさまが増えてきます。
1、フライヤーをとても感じよく受け取ってくれる
2、中年以上でふわふわした髪形
3、話しかけやすい雰囲気
4、ちっちゃいリュック
どうですか、40℃近い炎天下のアヴィニヨンで3週間を過ごすと、このようなバイアスまでかかってきます。
もちろんアヴィニヨンには、演劇祭には全く関心のない人もいます。そういう方にプログラムとフライヤーを持って突撃してしまい、あからさまに無視されたり、無下にあしらわれると、「うん、気持ちはわかるけど」と思いつつも、ちょっとだけ気持ちが凹んでしまうのも、人間ってやつです。
しかし、「もう何を観るか、予定は全部決めているんだけれど」と言いつつも、立ち止まってフライヤーをじっくり読んでくれたり、作品について質問をしてくれたり、「ここの劇場は毎年いいプログラムを組んでるのよね。去年は…」などと一歩踏み込んで話題を振ってくれると、劇場での公演時間内だけではなく、フェスティバルというものをとにかく楽しんでいる、深く味わっている、まるでフランスの演劇史と共に悠久の時を過ごしているかのように思えます。
ちょっと言い過ぎかもしれませんが、ここまで来ると、戦場のようなアヴィニヨンの激しさに揉まれて逞しくなった余裕が演者にはあり、それを安心して楽しむ老練な観客の姿があります。
最後の大切な層は、地元の方々です。
菱餅は三層ですが、もう一層加えます。
地元アヴィニヨン近辺の人々は皆、このフェスティバルをよくご存じです。
たとえ旧法王庁というとても有名な世界遺産を持っていたとしても、新しいエネルギーがなければ街が活気づかないということもよく理解しています。演劇、ダンス、サーカスなどを見る習慣がない人でも、そのシーズンに噂になっている作品を一つか二つは観ておきたい、観るならば、演出を十分に練り上げたフェスティバルの終盤だろうと知っています。そのため、のんびりとした暑い地方の服装が板についた、気取っていない雰囲気の人々が増えてきます。
アヴィニヨンの住民でない人々は、数日の間にできるだけ多くの作品を見ようとしてリストアップして回るため、一直線に次の場所を目指したり、急いで食事をしたりする必要がありますが、フェスティバル終盤になると、そのような遠方から来た人々は徐々に減っていきます。それを待っていたかのように、地元の人々が、アヴィニヨンで最後まで戦い抜いた団体の、有終の美を迎える様子を見に来てくれます。まるで「さて、あなたたちにとってのアヴィニヨンはどうでしたか?」と劇場に遊びに来た、演劇の神様のようでもあります。
さて、急いでご紹介しましたが、そんな感じの観客層から見るアヴィニヨン演劇祭の風景です。あくまで傾向、傾向であることを書き加えておきます。
豊岡演劇祭2023フリンジセレクションに参加します。
久しぶりの「演劇祭」参加です。
『BLANC DE BLANC ―白の中の白―』
豊岡稽古堂 市民ギャラリー
9月14日(木) 17:00開演
9月15日(金) 16:00開演
9月16日(土) 15:15/19:45開演
9月17日(日) 15:15/19:45開演
9月18日(月祝)14:00/18:30開演
9月19日(火) 17:30開演
9月20日(水) 19:00開演
豊岡市民会館 ギャラリー
9月21日(木) 19:00開演
9月22日(金) 20:00開演
9月23日(土祝)13:00/18:30開演
9月24日(日) 14:00/17:00開演
全会場共通・全席自由
一般前売 3,000円/学生前売 2,500円/小中学生 1,500円
※当日券は各500円増し ※豊島演劇祭「うずまくパス」対象演目
プレスリリース更新しました。こちらからダウンロードできます。
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