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健やかなる時も① 81

息詰まるような沈黙の中。
頬を伝い落ちる汗。
久し振りに味わう緊張感。
けれど。
僕は酷く冷静だった。
彼は絶対に僕を撃てない。
そんな確信があったからだ。

「 ──── 君は、銃を扱ったことがあるのか?」

「……」

「これまで一度でも、人を撃ったことがあるのか?」

147は答えない。
だから。
僕はその銃身に触れ、自分の心臓に当ててみせる。

「わたしはあるぞ。何度も。思い出せないくらい」

「……」

「この距離なら、何処でも狙える。頭でも、胸でも」

「……」

「撃ちたければ撃てばいい。その代わり、わたしも同時に君を撃つ」

その言葉に反応してか。
彼の指先が、ぴくりと動く。

「 ──── どうした?」

彼は、やはり答えない。
その手が小刻みに震えているのを、僕は感じていた。

「自由になりたいんだろう?」

「……」

「わたしを撃とうが撃つまいが。何れにせよ、君は逃げられない。過去からも、未来からも」

「……」

「悪いが ──── わたしには、脅しは効かないぞ」

その刹那。
彼は僕を突き飛ばし、自分の頭に向けて引き金を引く。
しかし。
僕の予想通り。
恐らくは、彼の意に反して。
引き金はぴくりとも動かずに。
一発の弾丸も、発せられることはなかった。


呆然としている彼に、僕はあらためて銃を突き付けて。
その手から、乱暴に短銃をもぎ取った。

「 ──── あのなぁ」僕は、溜め息をつきながら言う。「セーフティーの外し方も知らないのか?」

「えっ?」

「これだから、素人は困るんだ」

短銃の安全装置を確認して、懐に収めると。
147は観念してか、大人しく両手を挙げた。

「じゃれ合ってる場合じゃない」僕は、周囲を見回す。「この辺りには、おっかないのが沢山いるんだ」

立ち上がりつつ手を差し出すと。
彼は素直に、その手を掴んでくる。

「さっさと帰ろう。でないと、厄介なことに…」

そう言いながら。
砂を払ってやろうと近付いた時。
僕の目は、本能的に捉えていた。
煙る闇の向こうで、微かに赤い光が瞬くのを。

「 ──── 伏せろっ!」

147の上に覆い被さる直前。
僕の背に、弾丸が襲いかかってきた。
あらかじめ、狙いを定めておいたかのように。


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