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2022シーズンJ1のトレンド ハイトランジション化と得点力減少

まだあと1試合残っているものの今シーズンのJ1はちょうど中間地点。そこで以前このようなツイートをして多くの反響をいただきました。

そしてこれをNeilSさんがさらにトランジションに関して興味深い分析記事を投稿されています。ぜひ読んでみてください。

そして記事の中で以下のような分析結果がありました。

「ハイトランジション志向なチームの比較優位性が(得点面を中心に)高まっており、リーグ全体としてもハイトランジション化の傾向がみられる」

https://ronri-rukeichi.hatenablog.com/entry/2022/06/04/131350

この分析結果は大変興味深いもので、トランジション回数と得点数の相関係数は0.654と高い数字だったそうです。しかし得点数(本記事ではゴール)は運にも左右されるためチームパフォーマンスの評価としてゴール期待値を利用して私が相関係数を計算しました。すると結果は0.142と非常に低い数字でした。

横軸に得点数(ゴール)、縦軸にゴール期待値をプロットしたグラフ。
データが散らばっており相関関係は見られない。

一般的にゴール期待値とゴールには相関関係があります。従ってゴールとゴール期待値どちらで相関係数を導き出しても答えはほぼ同じになるはずです。しかしそうはなりませんでした。つまり今シーズンのJ1はなぜかゴール期待値とゴールに相関関係が見られないということです。この原因を探るのが本記事のテーマです。使用するデータはすべて1試合平均のものです。また、細かなデータではないまとめの部分を太字にしてありますので、結論だけ知りたい方は太字だけお読みください。

1.ゴール期待値とゴールの関係性

一般的にゴール期待値とゴールには相関関係があると前述しましたが、まずそれを確かめていきたいと思います。と言ってもFootball LABのゴール期待値ページを見ていただければわかりますが、22シーズン以外はどのシーズンでも右肩上がりで正の相関があります。

これで一般的にゴール期待値とゴールには相関関係があることがわかります。ただ本記事で使用するデータはシーズン途中でのものなので、それが影響して現在相関関係が見られてない可能性もあります。そこで今シーズンの被ゴール期待値を見てみます。

被ゴール期待値と被ゴール数のグラフも右肩上がりで相関係数は0.82と高い数字です。つまりシーズン途中であるということは原因ではありません。

2.今シーズンのJ1は得点力に欠ける??

ゴール期待値とゴールはデータの取得期間に関わらず相関関係があるのに、なぜか今シーズンのJ1はゴール期待値と得点数に相関関係が見れません。そこには何かしら原因があるはずです。

ここで再びゴール期待値とゴール数の散布図を見てみましょう。するとゴール期待値とゴール数が一致しない二つのグループが見えてきます。グループAは大きく外れている浦和、札幌、神戸、名古屋、福岡です。グループBは少し外れている広島、清水、湘南です。この二つのグループは左上に位置しておりゴール期待値よりもゴール数が少ない、つまりゴールを決め切れていないことがわかります。そしてさらに詳しく分析するためにシュート1本あたりのゴール期待値(xG/Shots)を見ていきます。

左の表はxG/Shotsを上から降順に(高い方から順に)並べたもので、グラフは横軸にゴールを縦軸にxG/Shotsをプロットした散布図です。面白いことがわかりました。グループAはxG/Shotsが高くグループBは低い結果でした。言い換えればグループAは期待値の高いシュートを決め切れず、グループBはそもそも打っているシュートは期待値が低いので決め切れないということです。

そして新たな仮説が生まれます。ゴール期待値とゴールは一致するという一般論から外れている二つのグループが両極端に集まっており、今シーズンのJ1はxG/Shotsの値が散らばっているのではないか。つまりチームによってシュート1本のチャンスの質に差が大きくあるという仮説です。これを調べるために今シーズンを含めた過去3シーズンの範囲と四分位範囲と標準偏差を求め、箱ひげ図を作成して可視化しました。

20シーズンの川崎が異常だったため、川崎を除いた20シーズンも掲載

求めた3つの指標全てで22シーズンが他シーズンに比べて若干高い数字になったものの、そこまで散らばり度に大きく変化はありませんでした。しかし箱ひげ図を見ると新しくわかることがあります。それは22シーズンは他シーズンに比べてリーグ全体としてxG/Shotsが下がっているということです。

ここまでの情報を整理すると、一般論から外れるグループAとグループBがあります。この両グループはxG/Shotsにおいて両極端に位置して、グループAは質の高いシュートを決め切れず、グループBはシュートの質が低いので決め切れていません。言い換えればグループAは決定力不足でグループBは決定機不足です。そしてこの二つのグループに限らずリーグ全体としてシュート1本あたりのゴール期待値は減少していて、得点力減少が見えます。

グループBは決定機不足が深刻でここ3シーズンと比較してもなぜか低い数字です。ちなみにそのグループBと近いxG/Shotsで生き延びているのが川崎で、川崎は質の低いチャンスを決め切ることで優勝争いを繰り広げています。グループAの5チームはなぜか揃って質の高いチャンスを外しています。次はその原因について探っていきます。

3.得点力減少の要因はトランジション??

では昨シーズンまでと今シーズンで何が変わったのか。5人交代などのルールは変わっていませんし過密日程も継続中です。
次に考えられるのはピッチ内のことで、例えばサッカーのスタイルなど。でもそれぞれのグループでスタイルが大きく変わったチームもなく、そもそものスタイルもバラバラです。
となると考えられるのはリーグとしての傾向の変化です。リーグとしての傾向の変化??そういえばさきほど紹介したNeilSさんの分析では

「リーグ全体としてもハイトランジション化の傾向がみられる」
「ハイトランジションな展開は、(ボールを持たせることよりも)自分達でボールを持ち、回すことに長けているチームの得点力により利する」

との記述がありました。ここでさきほどのグループAとグループBのチームを見てみるとグループBの広島と清水と湘南はボールを保持するチームではなく、どのチームもパス成功率は80%を下回っています。この3チームはハイトランジション化しているJ1の中でボールを保持する能力が低いため決定機を作れていないという予測ができます。ただ広島は数打てば当たる論でゴール数を伸ばしています。

グループAは事情が異なり、神戸札幌浦和の3チームはボール支配率は3.4.5位とボールを保持するスタイルのチームで、自分達でボールを持ち、回すことに長けているチームではあると思います。ここからは完全な憶測ですがハイトランジション化した結果、ゴールを決めるべき選手の負担が増してシュートをミスるようになったため、質の高いチャンスを決め切れていないのではないでしょうか。

名古屋と福岡に関してはボールを保持するスタイルではなくカウンターベースのチームです。この2チームは正直わかりません。過去のシーズンを振り返るとカウンターベースのチームはシュート成功率が低くなる傾向があり、その中でシュート成功率を高めることができたチームは上位に位置しています(20シーズンの東京と柏がその典型例でルヴァンカップ決勝のカード)。そのためカウンターベースの名古屋と福岡は一般的に言えばシュート成功率は低くなる傾向にあります。

トランジション数、スプリント数、走行距離を降順にした表

ただここで紹介したチームすべてがハイトランジション化しているわけではないので自信を持っては言えません。ご指摘等ありましたらぜひツイッター等でよろしくお願いします。

4.まとめ

川崎はハイトランジションのチームに弱いという私のツイートからNeilSさんの分析を通して、今シーズンのJ1はハイトランジション化が間接的要因となって得点力が減少しているのではという分析にたどり着きました。ただ私の高校生レベル以下のデータ分析に関する知識による分析でしたので、正直ガバガバな分析だったと思います。もしかすると強引な結論もあったかもしれません。しかしJ1は近年ハイトランジション化しており、それがリーグ全体に影響を及ぼしているのは事実だと思います。今後はハイトランジションに耐えられるチームが優勝争いを繰り広げるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

5.参考


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