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J1第17節 川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島 レビュー

第8節の名古屋戦以来2ヶ月ぶりのレビューとなります。大不調とも言えるシーズン序盤から、劇的とは言えないものの徐々に順位を上げ、川崎は現在9位(試合後)。序盤ほどの閉塞感は無いとは言え、まだ何か上手くいってないのが現状だろう。そして今節の相手は上位の広島。シーズンも後半戦へ向かって勢いづけたいところだ。

1.概略

前半は川崎のボール支配率が65%で、後半は広島が63%と前後半で真逆の数字となった。しかし一方でシュート数は両チームとも前後半で変化なく、試合トータルで川崎が9本広島が17本となった。ボール支配率は前後半で異なる数字となったが、シュート数が示しているように、トータルで見れば広島ペースだったと言えるだろう。以下のようにプレーエリアも川崎陣地が多い。

ドイツ人であるスキッぺ監督率いる広島は、ハイプレスを武器とするチームであるのは間違いない。一方の川崎はここ数シーズンビルドアップに問題を抱えている。この試合の前半でも川崎が効果的に広島のハイプレスを突破するシーンは少なかったように思う。ただ後述するようにハイプレスを突破しようとする意図を見る事はできた。

広島はハイプレスを武器とするチームではあるが、ボール保持においても明確な狙いを持っている。それはWBで相手DFラインを動かす事だ。これも詳しくは後ほど述べるが、これに対して川崎は比較的上手く対応していた。特に広島がDFラインを動かし、そのギャップを狙うやり方であり、川崎のDFラインが重要であった。

2.広島の中央封鎖をどう突破するか

・シミッチ脇をどう使うか

広島のハイプレスは、343の3トップで川崎の2CBと1アンカーを捕まえることから始まる。もちろんこの時に広島のボランチは川崎のIHを捕まえる。こうして中央封鎖することで、川崎のSBへボールを出させる。川崎のSBがボールを持ったところで、広島のWBが縦スライドでプレスをかける。このように中央封鎖からのサイド縦塞ぎが広島のハイプレスだ。
このやり方はどのチームに対しても同じだ。

この15:35がまんまとプレスにハマってしまったシーンだ。広島はエゼキエウとヴィエイラがそれぞれ大南と車屋を、森島はシミッチ番、そして野津田と川村が大島と脇坂を監視する。中央にパスの出しどころがなかった車屋は登里に横パス。すると広島WBの越道が登里へプレス。この時に広島は同サイドの選手すべてマークしており、同サイド圧縮が完成している。ここで登里は出張してきた家長にパスを出すが、ここで詰まってしまい奪われた。

広島がこのようなやり方をすることはスカウティングすればわかることで、たとえ家長が出張してきても、広島は人重視で同サイドにフリーな選手を作らないやり方なので、数的優位は生まれない。本来ならこのようなハマり方は起こしたくない現象だ。ではここでどうするべきか。低い位置の登里に越道がプレスをかけているという事は、その裏(赤い四角)が空いている。ここに宮代や小林を走らせれば、たとえ一発でボールが通らなくても、広島としては難しい処理になるためセカンドボールを拾いやすい。

このような広島のハイプレスに川崎は二つの方法で対応しようとした。

この9:40が一つ目の大島の降りる動きだ。川崎がゴールキックをショートパスで始めようとする場面。この場面では大島がシミッチの脇に降りて来て上福元からの縦パスを受け、大島が上手く反転し、脇坂へパスすることでプレスを回避した。
しかしこのプレス回避は大島だったからこそできたものである。たしかにこの日の両IHの大島と脇坂は後ろから当たられても反転するテクニックを持っている。しかしこのやり方はそのような選手の特徴を”活かす”というよりは、その特徴で”解決”していると言う方が正しいと思う。

そもそも広島のようなマンツーマンのハイプレス相手では、縦方向に降りて行っても、そのまま後ろからマークにつかれてしまうだけである。この試合で大島が列落ちをすることも多かったが、前を向けたのはDFラインと同じ高さまで降りた時のみだ。従って野津田に捕まっている大島の降りて来る動きはあまり意味がなかったと思う。もし大島が降りるなら、登里が越道を高い位置まで引っ張って、その車屋との間へ斜めに降りる方が効果的だ。

二つ目が山根の偽SBだ。この11:45のシーンでも中央の川崎の選手は全て捕まっている。しかし右SBの山根が内側に入って来ることで、シミッチの脇でボールを受けることができた。大島の縦方向への移動はマークされやすいと述べたが、このように横方向の移動はマンツーマンの相手に有効だ。WBである東がこの山根を捕まえることは流石にできない。もし捕まえて来たら大南の運べるスペースが生まれる。

このように偽SBによるハイプレス回避は理論的には効果的だと思う。しかしボールを受けた山根の先が整備されていない。そのため山根がフリーで前向けたけど、その後どうする?という状況になっていた。川崎は1stプレスを突破することが目的になっており、その後のサポートがない。大島の降りる動きもそうで、大島に縦パスを入れるなら、その大島のレイオフを受けて前を向ける選手を作るまでがセットだ。このような前進方法はブライトンの十八番だが、ブライトンは選手のポジショニングが決まっており、ある程度決め打ち的にプレーできる。しかし川崎は選手が動き回るためそのようなパターンが無い。シミッチの脇を使う方法は広島相手に有効だが、それがチームとして整備されていなかった。

また選手が動き回る弊害はもう一つある。この山根が偽SBとしてボールを受けた後も、多くの選手が動き回りながらパス交換を続けた。テンポが良いので一見すると良いプレーに見えるが、その後12:10にボールを奪われた時に、人が動き回ったせいで車屋と大南の二人のみで対応することになった。ボール保持において秩序がなければ、ネガトラも秩序がない。時間のないビルドアップにおいては判断する時間を減らすために、ある程度どこに味方がいるのか予測ができるようにチームとして約束事を決めておく必要がある。

・同サイド突破と迂回経路

川崎は崩しの段階において同サイドでの突破に拘る。崩しの段階はビルドアップと違い、相手も勢いに任せてプレスをかけて来ないため、ある程度時間ができる。この段階においてはオーバーロードや選手の移動によって、瞬間的に数的優位を作り出して、守備網を突破できる。例えば37:50~38:20では広島のIB(3バックの端)に対して数的優位を作ることで、ライン間で前向きの選手を作り突破に繋がった。

もちろんこのように上手くいくシーンもあるのだが、あくまでも目的は”瞬間的に”数的優位を作ることだ。冒頭のプレーエリアを見てもわかるように、川崎は同サイド圧縮に拘りすぎる。一度もサイドを変えずにボールを奪われることも多い。ボールを同じエリアで回し続ければ相手の視野はリセットされないし、DFラインも横方向に広がらない。その結果ボールを奪われてしまい、逆サイドに展開されれば広大なスペースでカウンターを打たれたしまう。

ではなぜ川崎は押し込んだ時にボールを左右に振らないのか。もちろん意識の問題はあるが、構造的にも問題がある。ボールを逆サイドへ運ぶための迂回経路が作れていないのだ。

この77:50では家長から大島へのパスがインターセプトされカウンターを受けた。まず家長がボールを持っているが、家長の周辺には大南とシミッチの二人しかいない。しかも大南はヴィエイラに狙われている。一方で左サイドには車屋を含めれば六人もいる。明らかにポジションバランスがおかしい。
この時シミッチは自分を捕まえているエゼキエウを引き連れてゴール方向に移動した。これによって家長から中央へのパスコースを作ったのだろう。家長はそのコースを使って大島にパスを出したが遠すぎた。大島は家長に近づくべきだったし、大南ももう少し開いてヴィエイラから距離を取るもしくは逆に中へ入って上福元へのパスコースを開けるべきだった。

このように川崎はサイドを変えるための後ろのパスコース、すなわち迂回経路ができていない。前半に大南がパスミスしてカウンターを食らうシーンがあったが、それもこれが原因だ。

広島はハイプレスにおいても撤退守備においても中央を封鎖することで、サイドに追い込む守備をする。これは川崎にとって非常に相性が悪い。広島でなければ押し込んだ時にもう少し左右に振れた可能性はある。しかし相手の守備が整っているのにやり直す素振りを見せなかったり、意識の問題も大きい。

3.広島のDFラインを動かすボール保持

ここからは広島のボール保持を見ていく。

広島のボール保持は基本的にWBを使った外経由だ。上のツイートのようにWBのポジショニングがミソ。WBはボールを前向きで受けれるように相手SHやWGの少し後ろにポジショニング。ここでボールを受ければ相手のSBを引き出すことができる。そこで相手SBとCBの間をシャドーが抜けたり、そのギャップを埋めようとCBがスライドしてきたら、今度はCB間にギャップができる。このようにWBでSBを引き出すことでDFラインを動かしギャップを生むのが広島のボール保持だ。

この40:20がCB-SB間の典型的なシーンで東が佐々木からボールを受けれるかつ前向きになれる位置まで下がる。そしてボールを受ければ山根が出て来る。その裏へ川村が走った。本来川村のマークは脇坂で彼も追いかけるが、ここは大南がカバーした。

そして47:20がCB-CB間の例だ。ここでも越道が前向きでボールを受けれる位置まで下がって登里を引き出す。これに連動して車屋がスライド。ここで広島はCB間のギャップを狙ってヴィエイラへ縦パスを入れた。ここは広島のミスになったが大南もしっかりマークについていた。この他にも30:30や34:55もこの前進の仕方だ。

この広島のボールの前進のやり方に川崎は比較的上手く対応したと思う。大南はSB裏のカバーやヴィエイラへの楔などタスクも多かったし、DFラインにギャップが生まれれば、シミッチやIHがDFラインに入って埋めた。30:30のようにクロスを上げられるシーンもあったが、全体としては良かった。また広島の36本ものクロスを浴びながら無失点に抑えたのも大きい。逆に言えば広島はサイド突破からのクロス以外に攻撃のバリエーションが乏しかったと言える。

4.まとめ

広島のボール保持に上手く対応したとは言え、シュートは17本打たせてしまった。しかし枠内シュートが2本でブロックしたシュートは7本。広島の質に助けられた部分もあるし、川崎の選手が純粋に頑張った事が、この数字に表れていると思う。やはり川崎の改善点がボール保持にあることは間違いない。ロングボールもダミアンになってから使えるようになったが、ダミアンが収めてくれることを願うのではなく、前述したようにWBを引き出しての裏などチームとして効果的に使いたい。
このような試合展開でゴールを決めたのは14番でバースデーボーイの脇坂。このゴールはロングカウンターからだったが、後半広島がボールを握る中ロングカウンターを打ち切れないシーンも目立った。
一つずつ改善していきたい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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