Jリーグはポゼッションからプレッシングへ?

2017シーズンに川崎Fが初優勝を遂げてから2022シーズンまでの6シーズン、川崎Fと横浜FMがリーグタイトルを独占した。この2チームは所謂ポゼッション型のチームで、この時期のJリーグはポゼッションを目指すチームが増え、ポゼッションの時代と言えただろう。
しかし2023シーズンに神戸が優勝したことはその潮流の変化を印象付けるものだった。神戸はバルセロナ化を謳い、イニエスタを獲得したりスペイン人監督を招聘するなど、ポゼッションスタイルの確立に勤しんできた。しかし2022年に吉田監督が再任し、イニエスタを起用せず、ロングボールの回収や守備の強度など、ポゼッションスタイルをいわば放棄した。その結果2023シーズンに初優勝を遂げた。
この神戸のスタイル転換はまさにJリーグのポゼッションからプレッシングへの潮流の変化の象徴だ。他にも広島はスキッペ監督の下で強烈なハイプレスを装備し様々なスタッツでリーグ上位に食い込み、C大阪はプレシーズンとは言えPSGに見事なハイプレスで勝利した。

このような文脈でFootballLABはチームスタイル指標の改訂を行い、新たにハイプレッシングやカウンタープレスなど被保持での指標が充実した。この記事ではそれらのデータを使って、【Jリーグはポゼッションからプレッシングへと変化しているのか】を目的として始めた。しかし結論から言ってしまえば、そもそもJリーグはポゼッション主流であったという考えに疑問符がつく結果となった。
記事の構成として、まず2017シーズンから2023シーズンまでのデータを使い、チームスタイル(主にプレッシングとポゼッション)と攻撃面でのスタッツの関係性を探る。次にシーズンごとに同様の調査を行い、Jリーグにスタイルの変化があるのか検証する。

あらかじめですが、私は統計学を勉強したことはなく、扱える指標は相関係数のみで、この記事は単なる相関関係から予想する因果関係となります。

1.使用データ

説明変数
プレス系データ
・ハイプレッシング指数:ハイプレスの量
・ハイプレッシングゲイン率:ハイプレスの質
・ミドルプレッシング指数:ミドルプレスの量
・ミドルプレッシングゲイン率:ミドルプレスの質
・カウンタープレス指数:カウンタープレスの量
・カウンタープレスゲイン率:カウンタープレスの質
ポゼッション系データ
・敵陣ポゼッション指数:敵陣ポゼッションの量
・敵陣ポゼッションシュート率:敵陣ポゼッションの質
・自陣ポゼッション指数:自陣ポゼッションの量
・自陣ポゼッションシュート率:自陣ポゼッションの質
詳しい定義はこちらをご覧ください。

目的変数
・ゴール期待値(2019シーズン以降のみ)
・シュート数
・チャンス構築率
・シュート成功率
・シュート一本あたりのゴール期待値(2019シーズン以降のみ)
・勝ち点
・得点

2.プレッシングかポゼッションか

そもそも近年のJリーグにおいてプレッシングとポゼッションどちらが優位であったのか。もちろん大前提として、これは二元論ではなくどっちもできた方が良いのは間違いない。しかしリーグの傾向としてプレッシングとポゼッションというチームスタイルが攻撃面に影響を与えるのかどうか見ていく。

相関係数が0.4以上の項目に薄い赤色をつけている

まず基本的にシュート成功率とシュート一本あたりのxGはほぼ全ての説明変数と相関関係を持っていない。この二つの項目はチャンスの質を測るために取り入れている。つまりチームスタイルはチャンスの質と相関関係はなさそうだ。逆に相関関係を持っているそれ以外の目的変数は、どれだけチャンスを作れたかという量に注目したデータである。従って、チームスタイルとチャンスの量には関係性がありそうだ。

順序は逆になるがポゼッションの項目から見ていく。ポゼッションに関しては敵陣ポゼッション指数がシュート一本当たりのxGを除くすべての目的変数とある程度の相関関係を持っており、敵陣でボールを回せればチャンスを多く作れるという仮説を立てれる。一方で自陣ポゼッションに関しては指数とシュート率ともに相関関係はない。所謂疑似カウンターは、プレスを自陣に引き出しひっくり返せば大きなチャンスになるという戦術的にキャッチ―なプレースタイルだが、"ひっくり返せば"という条件付きであり、効率的にチャンスを増やすチームスタイルではないのかもしれない。
プレス系データに目を移すと、それぞれのプレスのゲイン率が多くの目的変数と比較的強めの相関関係がある。ゲイン率はプレスでボールを奪えたかという質に着目している。つまりプレスの量を示す指数よりも質を示すゲイン率の方が目的変数と相関関係があり、プレスで効果的にボールを奪えるチームは、たとえ量が多くなくても、チャンスを多く作れるという仮説ができる。逆に言えば、プレスの量が伴っても必ずしもチャンスが増えるわけではない。

まとめると次の二つの仮説が浮かび上がる。
・敵陣でポゼッションできるチームはチャンスの量を増やせる
・プレスの質が高くボールを奪えるチームはチャンスの量を増やせる

しかし一般的にポゼッションスタイルを目指すチームは敵陣でのボール奪取も目指す傾向がある。

相関係数が0.4以上の項目に薄い赤色をつけている

ご覧の通り敵陣ポゼッション指数の高いチームはプレス系データのゲイン率も高い傾向にある。従って、敵陣ポゼッションとプレスのゲイン率どちらが原因となり攻撃面でのスタッツに貢献しているのか、もしくはまた別の要因が敵陣ポゼッションとプレスのゲイン率に貢献しているのか判断できない。この記事ではチームスタイルに注目するため、一度後者の第三要因の可能性に関しては置いておく。

3.17'から23'シーズンへの推移

では次に本記事のメインであるJリーグのスタイル変化について検証していく。

相関係数が0.4以上の項目に薄い赤色、0.6以上の項目に濃い赤色をつけている

これは各シーズンごとにプレス系とポゼッション系の説明変数と目的変数の相関係数をまとめた表だ。ここでもまず右側のポゼッションから見ていくが、全体として敵陣ポゼッション指数は相関関係を示しているが、プレス系に比べて赤い項目は少なく、またシーズン内もしくはシーズン横断的な傾向は見たらない。23シーズンに関して言えば相関係数が0.4を超える項目は一つだった。このようにポゼッションと攻撃系スタッツに因果関係を求めるほどの相関係数は見当たらない。

一方でプレス系データに関しては赤い項目が多く、0.7や0.8を超える強い相関関係を示している。特に前述したようにプレスのゲイン率はシュート成功率とシュート一本あたりのxGを除く全ての目的変数とシーズン横断的に相関関係を持っている。また17,18シーズンとそれ以降のシーズンを比べると赤い項目が増えており、19シーズン以降はプレスが強いチームが好スタッツを残してきた。しかし19シーズン以降でも、19,21,22シーズンではほぼ全ての項目で0.4以上の相関係数を記録したのに対し、20,23シーズンではゲイン率とゴール期待値、シュート数、チャンス構築率などに留まっている。

前述した二つの仮説と関連してまとめると
・ポゼッションに関しては敵陣ポゼッション指数の高いチームが良い攻撃面でのスタッツを残す傾向にあるが、必ずしもそうではなく因果関係も求められない。
・一方でプレス系データはほぼ全てのシーズンで目的変数と強い相関関係を持っており、プレスに強いチームはチャンスの量を増やしてきたと言える。

4.結論

この記事では17シーズンから23シーズンにかけてJリーグではポゼッションからプレッシングへとスタイルが変化してきたのではという仮説を検証してきた。しかし結論としては、そもそもポゼッションが主流であった時代はなく、プレッシングに強いチームがチャンスを増やしてきた。敵陣ポゼッション指数の高いチームは敵陣でボールを回し、奪われた後敵陣で効果的にボールを奪えていたからチャンスを増やせたわけで、敵陣でのポゼッションはチャンスを増やす直接的な原因であるとは言えない。

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